唐十郎作「盲導犬」に出演した木村拓哉は「右も左もわからなかった自分に『人から拍手してもらえる厳しさと素晴らしさ』を教えて頂けた」と述懐する。
稽古中に灰皿が飛ぶ厳しさ、容赦ない怒鳴り声。「ムサシ」に出演した小栗旬は「おい! 小栗。何やってんだよ!」と罵倒された声を忘れない。「また一緒にやろうな」。そんな優しい言葉もかける人だった。
二宮和也は映画「青の炎」で蜷川さんに鍛えられたが、「強い、熱い、情熱をもって」「芝居というものを教えられた」と振り返った。
2006年には彩の国さいたま芸術劇場の芸術監督に就任、劇団「さいたまゴールド・シアター」を設立し素人の高齢者による演劇に挑んだ。
だが、その陰にはさまざまな葛藤もあったのだろう。演出家の宮本亜門さんは、「俺はこんなに苦労してモノクロで革命を起こしているのに、何で亜門はカラフルにそれができるんだ」と吐露されたという。頂点に立ちながら、常に挑戦しもがき続けた姿がのぞく。
「接して下さったどの役者にもきびしい課題をつきつけ、花開くのをたのしみにして下さった。鬼の仮面をつけた神様ではなかったかと思うのです」(白石加代子)
訃報に接して、多くの俳優が哀悼のコメントを出したが、思いはみな同じだ。「訃報に言葉が見つかりません。今はまだこの現実を受け止められておりません」(吉田鋼太郎)
※週刊朝日 2016年5月27日号