ウクライナに侵攻してまもなく1年。ロシアのプーチン大統領が勝利を急いでいる。照準は来年の大統領選。欧米の戦車が投入される前に軍の総力を傾注しようとしている。AERA 2023年2月20日号の記事を紹介する。
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「こんなはずではなかった」
ロシアによるウクライナ侵攻が始まって1年を前に、プーチン大統領は今、こんな思いをかみ締めているのではないだろうか。
開戦時に掲げた目標は、何一つ達成されていない。
昨年2月24日に侵攻開始を告げたビデオ演説で、プーチン氏は次のように述べた。
「我々はウクライナの非軍事化と非ナチ化を目指す」
「非ナチ化」とは、ウクライナを親ロシア的な国に造り替えるという意味だ。
実際はどうだったか。ウクライナは非軍事化、つまり武装解除されるどころか、欧米の専門家たちの予想を超える頑強な抵抗を続けている。
政権転覆による「非ナチ化」が実現するどころか、ゼレンスキー大統領の評価は内外で急上昇し、ウクライナの人々の対ロシア感情は、引き返せないところまで悪化した。
侵攻着手を前に、プーチン氏はウクライナ東部のドネツク州とルハンスク州を国家承認したが、この2州全域の占領すらメドが立っていない。
■核戦力をちらつかせる
プーチン氏は開戦演説で、以下のように警告していた。
「この機会に外部から干渉する誘惑にかられている者たちに対して、極めて大事なことを言っておきたい。わが国、わが国民を脅かそうとする者に対して、ロシアは即座に対応する。あなたたちが歴史上直面したことがないような結果に至ることを知っておくべきだ」
要は、欧米諸国の軍事支援を阻止しようと、核戦力をちらつかせて牽制(けんせい)したのだ。
しかし実際には、ウクライナ軍の善戦を受けて、欧米は供与する武器を質、量ともに強化している。
先月には、ついに英米独3カ国が主力戦車をウクライナに供与することを決めた。実戦配備されれば、膠着(こうちゃく)状態にある戦況が一変する可能性が出てきた。
ロシアによる核の脅しにはひるまない。ウクライナに勝たせるための支援をできる限り続ける──。これが現時点での欧米のコンセンサスだ。
プーチン氏は2月2日、第2次世界大戦の激戦地ボルゴグラード(当時はスターリングラード)を訪れて、いらだちをあらわにした。
「ドイツの戦車レオパルトがまたもや我々を脅かし、ヒトラーの子孫の手によって再びウクライナの地でロシアと戦おうとしている」