■重要行事をキャンセル
プーチン氏の思惑違いを象徴するのが、昨年行われるはずだった三つの重要行事がキャンセルされた事実だ。
それは、年次教書演説、国民と直接対話するテレビ生番組「プーチン・ホットライン」、そして年末の大記者会見で、いずれもほぼ毎年行われてきた。
なかでも年末の大記者会見は、多いときで2千人近い内外の記者を一堂に集め、4時間もの質疑を一人でこなす、プーチン氏の独壇場だった。
あらかじめ仕込まれた質問も多いが、それだけではない。欧米メディアの記者からの厳しい質問も受け付ける。プーチン氏が補佐官の助けなど借りずにたった一人で次々に回答する様子をロシア全国に生中継することで、権威を大いに高める役割を果たしてきた。
ロシアがウクライナのクリミア半島を強制的に占領した2014年の大記者会見には、当時モスクワ特派員だった私も出席した。
冒頭、プーチン氏は自信たっぷりに切り出した。
「良い気分、闘志あふれる気持ちでみなさんに会えることを大変うれしく思う」
もしも今回、ウクライナ侵攻が思うように進んでいれば、この時のように喜んで大記者会見を開いていたに違いない。
大記者会見やプーチン・ホットラインをキャンセルしたのは、ウクライナ情勢を巡って厳しい質問が相次いだり、参加者が突然反戦の声を上げたりするなど、生中継中に不測の事態が起きるのを恐れたためだろう。
プーチン氏は昨年12月22日、いつもの大記者会見の代替として、ロシア主要メディアのクレムリン担当記者だけを集めた記者会見を開いた。時間はわずか48分。質問も明らかに事前に調整された、生ぬるいものばかりだった。
昨年10月にプーチン氏が外遊した際の記者会見で「ウクライナは国家として存続できると思いますか? ロシアはどうですか? 何も後悔していませんか?」という厳しい質問をぶつけた有力紙コメルサントの名物記者、アンドレイ・コレスニコフ氏も、年末の会見で尋ねたのは年次教書演説の見通しという気の抜けた内容だった。
■思惑はすべて外れる
私が見るところ、この記者会見では記者に質問を禁じるNGワードが設定されていた。
例えば、ウクライナで戦うロシア兵の貧相な装備や、部分動員を巡る混乱についての質問がそれに該当していただろう。プーチン氏にとって、今は触れられたくない問題だ。