4月16日未明、マグニチュード7.3の地震で大規模な土砂崩れに見舞われた熊本県南阿蘇村の高野台地区。見渡す限りの空間が茶色い土砂に覆われていた。数台のショベルカーが、家があったはずの場所を掘り続けていた。
夜を徹しての捜索作業の末、20日朝に心肺停止状態で発見され、その後死亡が確認された男性は、同地区に住む前田友光さん(65)。連日、捜索作業を現場で見守っていた長男の友和さんがこう語る。
「地震後、父に連絡をとったがつながらず、通行止めの道をなんとか阿蘇まで駆けつけた。土砂崩れを見て、ただただビックリ。正直、もうダメだとは思っていました。捜索の間ずっと、『早く父を出してくれ』と祈っていました」
南阿蘇の豊かな自然が気に入って「隠れ家」として家を購入し、近くのゴルフ場に勤務していたという友光さん。一年の大半をここで過ごし、熊本市内の自宅にいる妻もよく行き来していたという。
「父のすぐ近くに、40年くらい前の母との結婚式の写真があったそうです。オヤジ、最後まで母と一緒だったんだ、好きだったんだなと。遺体が見つかった場所は思ったよりずっと離れていて、かなり土砂に流されたようです。重かっただろう、怖かっただろうな……」
高野台地区では前田さんを含む4人が亡くなり、23日現在、1人の行方がわかっていない。
小高い丘の上に十数戸が軒を連ねたこの新興住宅地の住人は、村外からの移住者が大半だった。地区のある丘の下、村の古い家屋が連なる集落に住む80歳の男性がこう語る。
「あそこは村が人口減少対策のため、15年ほど前から移住希望の若者を集めていた地区。購入後、3年以内に家を建てる条件で土地を安く売っていた。どういう人が住んでいたか? さあ……私たち地元生まれの村民と付き合いもないし、あんまり関心もなかバイ。ここに80年住んでいるけど、周りの山で土砂崩れなんて起きたことなかった。まさかあんなことになるなんて」
高野台地区に住む40代の教員の男性はこう語った。