大河ドラマ「平清盛」(2012年)や朝ドラの「ごちそうさん」(13~14年)に出演し、ブレークした俳優・ムロツヨシさん。本誌で連載している作家・林真理子さんとの対談では、元々、東京理科大に進学した彼が俳優の道を目指したきっかけを話した。
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ムロ:大学に入ったら「この研究したい」とか「この先生のもとで勉強したい」とか、目的を持った同級生がたくさんいて、カッコいいと思ったんです。僕は可能な限り偏差値の高い大学に入っただけだったので、俺がやりたいことは何だろう、探さなきゃと思いました。それで6月初旬、たまたま舞台を見に行きまして。
林:何を見たんですか。
ムロ:「陽だまりの樹」という手塚治虫さん原作のお芝居で……。
林:中井貴一さん主演ですね。
ムロ:さすが、よくご存じで。僕、深津絵里さんの大ファンで、生の深津絵里が見れるというミーハーな気分で行ったんですが、第1幕の最後、段田安則さんがワーッと泣き叫びながら舞台が暗転する場面を見た時、もう感動とかそういうんじゃなくて、あっち側に行きたいと思ったんです。「俺がやりたいことはこれだ!」と確信してしまって、次の日から大学に行かなくなりました。
林:えっ、普通は大学に通いながら劇団に入るとか、オーディションを受けるとか……。
ムロ:周りにも止められたんですけど、そのころ僕を育ててくれた親戚の家が、経済的な問題で家庭崩壊しかけていたんです。もう学費を払ってもらうわけにはいかないし、ちょうどいいきっかけだと。それで大学をすっぱりやめました。
林:でも、食べていけないでしょう。
ムロ:まさかその後15年間、暗黒の時代が続くとは思わなかったです(笑)。3、4年で食っていけるだろうぐらいに思ってたんですよ。
林:よくあきらめなかったですね。