作家・北原みのり氏の週刊朝日連載「ニッポンスッポンポンNEO」。北原氏の身近で起きた盗撮事件に「軽いおふざけ」と言いきる男性の心理を「性犯罪者に対するダブルスタンダードがある」と分析する。
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知人の子ども(高校生)の学校で、盗撮事件が起きた。犯人は複数の男子学生で、盗撮されたのは同級生の女子だ。決定的な証拠が残っていたこともあり、学校側は男子学生を全員退学処分にした。
という話が知人の集まりで出たところ、その場にいた男性が「退学させるなんて、学校側はどうかしている」と、真剣な顔で言った。「本当の変態なんて、その中に一人いるかいないかだ。高校生が軽いおふざけでやったことで、一生を棒に振るような処分を教育者がするべきじゃない!」と。
はぁ? その場にいた女たちは、みな、背中の毛が逆立った。
学校側が、“問題児”をすぐに退学させることへの異議ならばわかる。でも、そこに至るまでの彼の堂々たる論理が、私たちには、とてもとても、怖かったのだ。
まず、盗撮するのは一部の変態な男だけ、という認識。「性犯罪を犯すような男は、俺たちフツーの男とは関係ない」と、切り離せる感覚が怖い。
女なら知っている。いかにフツーの男たちが、しれっとした顔で、電車の中で触ってくるか。フツーにお父さん、フツーに課長をしているようなオッサンが、触ってくるか。そして、いざ性犯罪が発覚した時には「性欲が溜まってたんだ」「仕事で疲れてたんだ」というような、男の自然/本能/気の迷いとして受けとられることも、私たちは知っている。
しかも盗撮を「軽いおふざけ」と言いきるなんて。自分の体が自分の望まない形で消費され利用される気持ち悪さや恐怖、男の人には、わからないのかな。女子高校生が受けた恐怖より、「若い男の有望な将来」が心配できるんだなぁ、と私たちはあっけにとられたのだ。どこかで「(盗撮されたって)減るもんじゃないし」と考えているのではないだろうか。
今年に入ってから盗撮事件について2回聞いた。どちらも身近な知人からだ。もう一件は、電車の中で目の前の男に撮られた女子高校生2人。偶然気がつき、「まじ通報」「まじキモイ」と、その場で警察に電話し、男を逮捕させたというが、もし一人だったら、怖くて通報できなかったかもしれないと言っていた。
今日もどこかで、性犯罪被害にあっている女性がいる。性犯罪は日常的に起きている。それは、性犯罪をどこか軽く考える一方で、自分の問題ではないと切り離せる男たちの冷たさと、無関係じゃないはずだ。
ちなみに前出の彼は娘がいるフツーのパパです。フツーに原発再稼働に反対し、フツーに人権問題について考えるフツーの人です。で、その場にいた女たちは彼を「顔洗って出直してこい」などなどの言葉の暴力でボコボコにしました、とさ。
※週刊朝日 2016年2月12日号