
JR大崎駅前。再開発が進み、近代的な高層ビルが立ち並ぶなか、昭和のなごりを残す一角がある。「大崎一番太郎」は、そんな大崎駅西口商店会のマスコットキャラである。
「これまで大崎は、山手線の駅があるというのが最大のアイデンティティーで、『大崎(お先)真っ暗』などと言われることもあり、それをあえて前面に出そうと思ったんです」
と、大崎一番太郎の生みの親である犬山秋彦さんが言う。2006年の誕生時のキャッチフレーズは、「もう何も無いなんて言わせない!」だった。
ボディーの緑色は、「自虐もこめて」山手線のイメージ。
「元商店会長が、『大崎は山手線の始発駅でもあり、山手線の一番何でも一番を目指す』と、『大崎一番宣言!』ということをずっと言っていたので、名前に使わせていただきました」
と犬山さん。「ゆるキャラグランプリ2015」にも参加したが、大崎一番太郎は、あえて最下位を目指すという戦法に出た。半端な順位よりもかえって最下位のほうが注目される可能性は確かに高いかもしれない。これもある意味で“一番”か。犬山さんは言う。
「目立てるという理由もありますが、毎日義務のように投票するというスタイルにも疑問をもちました。その日の気分で応援するキャラを変えてもいいのではと。組織力や資金力の勝負になりつつあった上位争いへのアンチテーゼとしては、成功したと思っています」
最下位獲得を目指すため、他の仲良しキャラや、下位争いをする他のキャラへの投票も呼びかけたという。そのおかげか、実際に一時最下位になることもできた。犬山さんは言う。
「最下位になった暁には、自腹で花やしきか東京ドームを借りてイベントを行うと宣言したので、本当にやるはめになったらどうしようとハラハラしました」
結果は1727体中、総合1449位。結局、それなりに票が入ったようだ。
「これからはまた新しく、楽しいグランプリでの遊び方を提示しなければいけないとも思っています」
新たな「一番」を模索中だ。
(太田サトル)
※週刊朝日 2015年12月25日号