「水木さんの訃報を聞いたとき、これで『戦争の時代が終わった』と感じた。水木さんはずっと戦時下の悲しみと怒りを生きてこられた。それを前にして、若輩者の自分が『もう戦後だ』とはとても言えなかった」
漫画家のしりあがり寿さん(57)は、水木さんの作品の特徴の一つは「背景のリアルさ」だという。アシスタントをしていた漫画家つげ義春さん(78)も、ラジオ番組で「絵を丁寧にこまごまと描くということは水木さんから吸収させていただいた」と語っている。
しりあがりさんが言う。
「江戸期から言い伝えられた妖怪の姿を現代風にアレンジせずに残しているのも大きな功績。アニメなどでいろいろな妖怪が活躍しているけれど、水木先生がいなかったら、日本独自の妖怪は立ち消えていたかもしれない」
漫画に取り組んできた水木さんを54年間にわたって見守ってきた妻の武良布枝さん(83)は、本誌に「あれだけひたむきに仕事に打ち込むのは、普通の人にはできない」と語っていた。自身も「休息と言えば深呼吸」というほど休みなく働いた。その一方で、根っからの「睡眠至上主義者」を自任。水木家では寝ている人を起こすことはタブーだったらしく、こう語っていた。
「子供の頃から眠ることが大好きだった。だから僕自身の眠りを妨げることはもちろん、妻には寝ている子供を起こすことも禁じた。日曜日など、昼になっても誰も起きずに、家の中がシーンとしていると満足する」
『ゲゲゲの鬼太郎』に影響を受けたというタレントの中川翔子さん(30)は、
「先生と対談させていただいた時に、『寝る時間は黄金の時間! 寝てる時間にアイデアも浮かぶし寿命がのびる!』というお言葉を頂き、それから自分の生き方考え方を改めました」
とコメントした。『水木サンの幸福論』にある「幸福の7カ条」を「私を幸せに導く確かな秘伝書」と考えているという。
「先生は『やらずにいられないことをし続けなさい』と言っていた。その言葉の通り、私も好きなことをやって気張りすぎないように生きていこうと思います」
晩年、体が弱っても車椅子には乗らず、次女の悦子さん(48)とともに寄り添ってゆっくりと歩く姿が見られていた。悦子さんは水木さんの海外取材にはほとんど同行し、娘として、水木プロダクションの社員として、全面的にサポートしてきた。
水木プロの入るビルで茶屋を営む田中國男さん(63)は、こう話す。