加齢によって筋肉が衰えると、高齢者のさまざまな問題を引き起こすことがわかってきた(※イメージ)
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「立つ」「歩く」など、人間の基本的な動作を可能にする筋肉。加齢によってそれが衰えると、高齢者のさまざまな問題を引き起こすことがわかってきた。近年提唱される「サルコペニア(筋肉の減少)」は、転倒・骨折のリスクを高めるだけでなく、認知症やがんにも関係しているという。

 サルコペニアは、握力、筋肉量、歩行速度の三つの基準で診断される。

 握力は男性で26キロ未満、女性で18キロ未満、筋肉量は男性で1平方メートルあたり7.0キロ未満、女性は5.7キロ未満、歩行速度は1秒当たり0.8メートル以下のすべてに該当したときにサルコペニアと診断される。

 この中の「歩行速度」について、自分で秒速を測るのに簡単な目安がある。それは「横断歩道」だ。一回の青信号で横断歩道を渡りきれないときは、歩行速度が秒速0.8メートルを下回っている危険性が大きい。

 筋肉量と筋力が急速に衰えるサルコペニア。放置すると運動量が減り、外出や人付き合いへの意欲も低下する。自宅にいても「立ったり歩いたり」をしたくなくなる。着替えや入浴なども一人では難しくなり、人の手を借りなければ日常生活にも困るようになっていく。

 そのため、日常の運動量が減れば筋肉量はさらに減少し、並行して骨量の低下にも拍車がかかる。つまり、骨粗鬆症の進行だ。サルコペニアは筋肉量の減少にともなって骨も弱くなる病態。人間のからだを建物に例えるなら「柱と壁」がそろってもろくなっていくようなものと考えれば分かりやすいだろう。

 しかも、筋力と筋肉量が低下すればバランス感覚も正常ではなくなり、転倒しやすくなる。骨粗鬆症で転倒すれば簡単に骨折するし、そのまま寝たきりに移行するリスクが高いことは言うまでもない。サルコペニアは「寝たきりの入り口」なのだ。

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