おしゃれな住宅街・吉祥寺で、近くに住む女性が殺害された。現地を歩くと、7度連続「住みたい街ナンバーワン」のブランドに陰りが見えてくる。
現場はメーンストリートの吉祥寺通りから東急百貨店の北側に折れて大正通りを350メートルほど入ったところだ。
遺体が発見された場所は、住宅街へと街並みが変わるあたりで、休日の人波も切れる地点だ。周辺には意外にもスプレーで書かれた落書きが目立つ。ところどころに「ひったくり警戒中」「空巣にご用心」などと書かれた看板も立つ。
警視庁が情報公開している市区町丁別の刑法犯の認知件数によると、2012年、吉祥寺本町1丁目は561件、2丁目は130件。
「安全な街だと誤解していたなと反省しています」
事件現場の斜め前にある「すみれ幼稚園」の吉田一紀(いちき)事務長(61)は今回の事件を機にそう思った。
吉祥寺近辺の学校へ通い、吉祥寺近辺に暮らしていたノンフィクション作家の星野博美さん(47)は7年前に街を出た。「昔は吉祥寺が大好きだったけど、人やお店が集まりすぎたし、若い人向けの店ばかりで住みにくい街になった。戻る気はありません」と言い切る。
事件についてはこう分析する。
「渋谷や新宿は、百貨店のエリアやラブホテル街、繁華街など、それぞれ香りが違い、このエリアには近づかないでおこうと心の準備ができる。吉祥寺は計画的ではなく、街の価値が高まったことで店が増え、住宅街の中にまで進出した。繁華街とおしゃれな雑貨屋エリア、住宅地が隣り合って、危ないところとそうでない場所の区別がつきにくくなった」
09年からは駅周辺の「若返り」の再開発が始まったが、古いものを大切にしたい吉祥寺の住民にとっては「劣化」にも映るようだ。猥雑さがまた消えてしまうのか。
『東京吉祥寺田舎暮らし』を昨秋に出版した出版社編集長の井形慶子さん(53)は言う。
「吉祥寺を守ってきた、余裕のある人や文化人が住みにくい街になりつつあり、『吉祥寺らしい落ち着いたたたずまいを取り戻そう』という声が今はほとんど。若者受けを狙う路線にはみんな反対なんです」
※AERA 2013年3月18日号