珍しいと思っていたら電話帳に東京で五軒、親族でない「下重さん」がいる。なぜか医者が多くわが家もかつて医に関する家だった。
ある時友人が電話をくれて、大きなイベント会場で、下重あきこさんという人が司会をしていたので、私かと思ったら若い美しいお嬢さんだったという。あきこの字が違うのだが、音は同じだ。後にミス東京に選ばれた女性だと判明した。
宝塚をはじめ、相撲のしこ名も現代風のものが多くなったが、世につれてあまりにキラキラ名前だと印象稀薄。かえって昔からあるシンプルな名前こそ個性的と思える。
例えば、「太郎」とか「花子」。友人の音楽家は外国人と結婚した娘の子供に「タロウ」「ハナコ」とつけた。その感性や良し!
せめて自分の名にふさわしく、いや負けぬよう今の名を輝かせたい。
変わった名をつけずとも、その人の生き方が名前を輝かせる。
作家の「佐藤愛子」さん。決して変わった名前ではないが、その名のなんと堂々としていることか。それは生き方が堂々としていることに他ならない。
下重暁子(しもじゅう・あきこ)/作家。早稲田大学教育学部国語国文学科卒業後、NHKに入局。民放キャスターを経て、文筆活動に入る。この連載に加筆した『死は最後で最大のときめき』(朝日新書)が発売中
※週刊朝日 2023年2月24日号