繁実さんが顔をクシャクシャにしながら、亜沙美さんに笑いかける。亜沙美さんは3年前まで広島などのホテルや宝石店などで働いていた。2012年に夫(31)と子とともに繁実さんが住む集落へ移住してきた。きっかけは祖母の急逝だった。

「親戚が祖父の世話をしてくれるかと期待しましたが……」と当時を振り返る。繁実さんの3人の子はみな、自分の親元に帰る選択肢は持っていなかったという。

「食事をつくれない祖父を一人にするわけにもいかず、移住を決めました」(亜沙美さん)

 町内には医療・福祉系の仕事は多かった。看護師だった夫はハローワークを通して、町内の特別養護老人ホームに再就職が決まった。亜沙美さん自身は、1歳になる2人目の子どもの世話が中心の日々だが、まもなく仕事に復帰しようと医療事務の仕事を探している。

 アパート暮らしも頭に浮かんだが、祖父宅の敷地内にある納屋の2階を改造することにした。眼下に広がる田んぼの風景、子どもたちがのびのびと遊べる環境、何より農作業が大好きな祖父をそばで見ていられる安心感が決め手だった。

「子どもが通う保育所までは家の前から無料バスが出る。家では子どもに泣きわめかれても、近隣住民を気にする必要もなく、窓の外は一面緑で気が紛れます。町からは離れていて交通は不便ですけど、子育てには最高です」

週刊朝日  2015年8月28日号より抜粋

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