『真珠とダイヤモンド』(上・下、桐野夏生、毎日新聞出版 上1760円、下1650円・税込み)はバブル時代に証券会社の福岡支店に入った男女3人の流転を描いた長編小説だ。NTT株が売り出され、世の中は沸いていた。証券マンのボーナスは札の厚みで封筒が立つと言われた時代だ。
「一度バブルの時代を書いて私なりの総括をしようと思いました。人生が大きく変わった人、亡くなった人もいたあの時代を考えてみたかった。バブルに狂わされてついえていった人たちの青春残酷物語です」(桐野夏生・以下同)
新入社員の3人はそれぞれの道を歩き出す。事務員の水矢子は大学進学資金を貯め、窓口担当の佳那は顧客をつかんでマンション購入や海外旅行を目指す。営業マンの望月は1億円の契約をとって上司にちやほやされるが、裏社会に通じる黒い秘密を抱えていた。
桐野さん自身は家にこもって子育てをしていた時期だったのでバブルの恩恵は感じなかったが、金を尺度に人を見る風潮には違和感を覚えた。
「今まで慎み深かった人たちが、あの人は財産がいくらあるとか品のないことを言うようになった。日本人が変わった時代だと思います。ボージョレ・ヌーボーを初めて飲んだ世代だと言う人もいますが、豊かになった半面、格差も生まれました」
水矢子は東京の大学に入学し、佳那と望月は結婚してやはり東京で贅沢な暮らしを始める。しかし、バブルが崩壊すると望月は億単位の損失を出した顧客に追われることになる。
証券会社の内部を書くため、桐野さんは経済記者や弁護士に取材した。
「勝ったとか、儲けたなどの華やかな話はたくさんあるんですけど、そこには負けた人も必ずいるわけです。というか、負けた人の方が多い。バブル崩壊後に連絡が取れなくなった証券マンも多いと聞きました。運命が激しいのは、やはり巨額のお金が絡んでいるからでしょう」
桐野さんは前作の『燕は戻ってこない』で生殖医療を取り上げ、困窮して代理母の道を選ぶ女性を描いた。常に女性の生き方に関心を寄せるのはなぜなのか。