『タッチ』の印象的なシーンとして、和也が亡くなったあと、南ちゃんが高架下で泣くシーンを挙げられる方が多く「どんな心境で演じられたのですか?」とよく聞かれます。しかしあの場面で、私は一言も声を発していないんです。原作に忠実に、泣き叫ぶ声は電車の音でかき消されてしまう。
大切な幼なじみを失った南ちゃんの気持ちが、見ている方の想像に委ねられているから、より悲しく、深く心に残るのだと思います。
和也が存命のころは、南ちゃんと達也の関係も、普通に幼なじみで、ポンポンものが言えた。ところが、和也が亡くなって、二人だけになってしまうと、お互いが和也の思いを背負い、むしろ気持ちが見えなくなってしまう。その葛藤を抱えながら、大人の女性へと成長していく南ちゃんを意識して演じていました。
あだち先生とは年に一度、パーティーでお会いしますが、そのたびに、「長く愛されるキャラクターでありがたいですね」とお話ししています。南ちゃんを演じた私はもちろん、誰より先生が幸せを噛みしめてらっしゃるんじゃないでしょうか。
※週刊朝日 2015年8月7日号