まもなく幕が開く夏の甲子園。高校野球をテーマにした漫画の中でも最高峰の一つが、あだち充さんの『タッチ』だ。アニメでヒロイン・浅倉南の声優を務めた日高のり子さんは、その大役にプレッシャーを感じたという。
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私は兄の影響で、浅倉南役のオーディションを受ける以前から、あだち充先生の作品は読んでいました。中でも『タッチ』が大好きでしたから、ぜひやりたいと思っていたんです。いざ合格して、記者発表のような場に出てみると、関わっている方々があまりに多くて。声優としてキャリアの浅かった私は、期待の大きさに「大変なことになったぞ」と思ったものです。
勉強ができて、スタイルも良くて、運動神経抜群なのに、それを鼻に掛けたところはないし、南ちゃんは男性が思い描く理想の女性像ですよね。
南ちゃんは、相手が誰であっても傷つくことは絶対に言いません。それは『タッチ』のすべての登場人物にいえることで、人をおとしめるような人物がいなくて、人が人を思いやることが作品の根底に流れている。
甲子園に出場するために倒さなければいけないライバルはたくさん登場しますが、悪役は誰一人いません。唯一、厳しく部員をしごく柏葉英二郎監督がそれに近い存在ですが、最終的には達也とも心が通じ合います。
物語の前半に、幼なじみのカッちゃんが亡くなってしまうシーンは、私もショックを受けました。あだち先生の作品にはふさわしくないぐらい、救いようのない悲しさで。