ピース・アンド・ラヴ/ゲイリー・バーツ・ウントゥ・トゥループ
ピース・アンド・ラヴ/ゲイリー・バーツ・ウントゥ・トゥループ
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エレクトリック・マイルスが憑依したゲイリー・バーツの爆裂ライヴ
Peace And Love / Gary Bartz Ntu Troop (Cool Jazz)

 今回はマイルス周辺ミュージシャンのライヴ音源のご紹介です。その名はゲイリー・バーツ。クーッ。そうです、あの『ライヴ・イヴィル』で怒濤のサックスを吹き倒し、かの《ヒューマン・ネイチャー》におけるケニー・ギャレットかゲイリー・バーツかと、マイルス史上「そこまで吹き倒すか大賞」を競い合い、見事首位に輝いた、そう、あのゲイリー・バーツなのです。

 ドイツはブレーメンにおけるライヴ。バーツが率いるのはウントゥ・トゥループなるグループ。キーボードがチャールス・ミムス、ベースがカーティス・ロバートソン、ドラムスがハワード・キングという顔ぶれ。ハワード・キング以外はマニアックな人選ですが、ウントゥ・トゥループにとっては重要なメンバー、よってこのライヴは、完全ではないものの、ほぼ理想的な陣容によるものとみていいでしょう。

 おお、これはマスターテープですか。音質、バランスともに問題なく、明日にでもこのまま公式発表も可能なほどのクオリティ。とはいえ出すまでもありませんが。そして録音された時期が75年11月というわけで、マイルス的には引退生活の初心者時代。まあ直接的には関係ありませんが、御大がウンウンとベッドで苦しんでいるとき、かつての弟子はドイツで「ピースアンラー(peace and love)」とノンキな声で歌っていたわけです。「オマエに欠けているのが、そのピース&ラヴなんだよ!」という御大の声は、もちろん届きません。

 全3曲の、かなりの無駄も含んだ長尺盤。これはもうバーツの超マニア以外にはお薦めできません。演奏は好調にして軽快、いまならクラブ世代の耳に「カッチョイイー!」と響くかもしれません。しかし随所にヴォーカルが飛び出し、燃え上がるまで時間がかかる、かかる。どうせ燃えたところで一本調子なのですから、もっと早く燃えて、盛大に燃え尽き、その足で家に帰ればいいのではないでしょうか。それではギャラがもらえないので、3分ですむものを20分くらいかけて延々と引き延ばすわけですが、この「引き延ばし」こそバーツのお家芸で、「そこが好き」という熱狂的なバーツ・ファンもいないわけではありません。場面によってはマイルスのエレクトリック・フレーズが憑依し、爆裂的展開に突入することも。以上、今回はマイルス関連作として軽くご紹介しました。それではまた来週。

【収録曲一覧】
1 Sweet Tooth
2 Peace And Love
3 For The Love
(1 cd)

Gary Bartz (sax) Charles Mims (key) Curtis Robertson (b) Howard King (ds)

1975/11/8 (Germany)

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