雑誌「東京人」の編集者を経て、評論、エッセーなどの執筆活動を続ける評論家、エッセイストの坪内祐三(つぼうち・ゆうぞう)さん。作家・林真理子さんとの対談で銀座のバーで出会った思い出を語った。
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林:坪内さん、デビューはわりと遅いんですよね。
坪内:1986年の3月に大学院を卒業して1年半ニートだったわけ。87年の9月に「東京人」の編集者になって、90年の9月に辞めて、第2次ニート時代に入ろうとしたときに、林さんと僕、会ったの。覚えてます?
林:覚えてないです。
坪内:銀座に「ラドンナ」という古いバーがあって、戦前からの建物ですごく雰囲気がよくて、林さんと中野翠さんをお連れしたんです。
林:ああ、思い出した。あのとき中野さんが連れてきた若い青年が坪内さんだったんだ。
坪内:あのころ、林さんは原宿のマンションに住んでたでしょう。僕、三軒茶屋だから、タクシーで送ったんだけど、林さんが「坪内さん、次の就職のあて、あるんですか」「いや、別に」「私、講談社だったら何とかなるかも」と言って、「いや、僕、しばらく働きたくないんで」……。
林:私、そんな偉そうなこと言ってたの!? いやー、恥ずかしい。顔から火が出そう(笑)。今だって入れられないのに、そんな若いときに何とかなりませんよ。