集団的自衛権行使を認める武力行使の「新3要件」についてジャーナリストの田原総一朗氏は、急がずじっくり話し合うべきだという。

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 5月20日に、集団的自衛権の行使をめぐって、安倍晋三首相と、民主党の岡田克也代表など野党3党首による党首討論が行われた。

 岡田代表は、まず政府が閣議決定をした「新3要件」に基づいて行使するときには、自衛隊の活動範囲は当然ながら相手国の領土、領海、領空に及ぶのではないか、と問うた。

 それに対して安倍首相は、「一般に海外派兵は行わない。これは最小限度を上回るということで我々は行わない」と答えた。「私たちの集団的自衛権の行使については、一部の限定的な容認にとどまっている」とも言った。

 安倍首相が意図的にはぐらかしている、とは考えたくないが、これでは答弁になっていない。

 仮に後方支援で武器、弾薬、兵員などを運ぶとしても、少なくとも相手国の港までは運ばなくてはならないわけで、当然ながら領海、領土に入ることになるのではないか。あるいは安倍首相は、岡田代表の質問が理解できていないのか。武器、弾薬、兵員などの輸送といっても相手国は戦闘行為ととらえて、攻撃の対象になるはずである。

 さらに、後方支援を行うのは、戦闘行為が行われていない場所であって、戦闘が始まれば直ちに撤収するということだが、繰り返し記すが後方支援といえども、相手方にとっては敵対行為、戦闘行為である。

 
 戦闘が始まれば撤収するとは、具体的にどうすることなのか。現場から逃げ出すということなのか。そんなことをしたら格好の標的になるのではないか。

 岡田代表は、後方支援をすることで自衛隊が戦闘に巻き込まれる恐れがあるのではないか、と問い、安倍首相がアメリカの戦争に巻き込まれることについて「絶対にありません」と答えたことにも、「そういう断定的な粗雑なものの言い方では、国民の理解は深まらないし、ちゃんとした議論にはならない」と反論した。

 安倍首相は「巻き込まれ論はあり得ない」と繰り返し、「巻き込まれ論はかつて、1960年の日米安保条約改定時にも言われたが、これが間違っていたことは、もう歴史が証明している」と言い切った。

 だが、現在まで日本の自衛隊は専守防衛で、日本がいずれかの国から攻撃されたときに戦うことになっていた。戦後、日本はどの国からも攻撃されたことがないのだから、巻き込まれるなどということが生じるはずがない。だが、集団的自衛権を行使するというのは、「新3要件」の範囲では、日本が攻撃されていなくても後方支援をするというのだから、事態が大きく変わったわけである。

 朝日新聞が16、17日に行った世論調査でも、安倍首相の「アメリカの戦争に絶対に巻き込まれない」という説明に「納得できない」が68%で、「納得できる」は19%でしかない。

 そもそも「新3要件」にしても、例えばアメリカに対する武力攻撃が発生し、それによって我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある場合となっているが、これでは曖昧で歯止めがなく、具体的なケースを示すべきだと岡田代表は主張している。

 ともかく、国民の大部分には政府が何をどこまでやろうとしているのかよくわからない。時間をかけて、具体的にじっくり審議すべきであり、今国会で成立させようなどと考えないことだ。

週刊朝日  2015年6月5日号

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田原総一朗

田原総一朗

田原総一朗(たはら・そういちろう)/1934年、滋賀県生まれ。60年、早稲田大学卒業後、岩波映画製作所に入社。64年、東京12チャンネル(現テレビ東京)に開局とともに入社。77年にフリーに。テレビ朝日系『朝まで生テレビ!』『サンデープロジェクト』でテレビジャーナリズムの新しい地平を拓く。98年、戦後の放送ジャーナリスト1人を選ぶ城戸又一賞を受賞。早稲田大学特命教授を歴任する(2017年3月まで)。 現在、「大隈塾」塾頭を務める。『朝まで生テレビ!』(テレビ朝日系)、『激論!クロスファイア』(BS朝日)の司会をはじめ、テレビ・ラジオの出演多数

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