だが野中氏ら自民党重鎮が相次いで引退し、中国側も江沢民政権、胡錦濤政権と幹部の世代交代があり、日中の政治人脈は先細る一方だ。小泉純一郎元首相の靖国参拝も影響したといわれている。
ここで問題になるのが日中ナショナリズムの“過熱”だ。中国の弁護士で亜細亜大学経営学部の范云涛教授は「安倍さんと習さんが国のトップに就任した時期を思い出してほしい」と言う。
「安倍さんが12年に政権トップに返り咲いた際、健康不安説や維新ブームもあり、決して盤石ではなかった。習さんも13年に国家主席となりますが、『習って誰?』『奥さんで歌手の彭麗媛は知っているけれど』との声は少なくなかった。また安倍首相は祖父が岸信介、父親が安倍晋太郎。習近平の父も党中央委員の習仲勲と、ともに大物の世襲議員で、07年の世界金融危機から脱却を図る経済課題を抱えていたなど共通点がある。いずれにせよ、安倍・習両政権は、自分たちの支持率を固めるため『強い国家』を打ち出す必要があったのです」
だが安倍首相は総選挙に勝利し、習主席の権力掌握も「既に7割程度を押さえ、山場は過ぎた」(范教授)という。少なくとも理論上はナショナリズムに頼らずとも政権運営は可能な状況にはなっている。
「実は王外相の国連演説では、平和実現と国際協調を何度も呼びかけている。アメリカ、日本、EUは協力し、公平な国際社会を実現すべきという訴えもありました。つまり、こじれにこじれた日中関係を修復したいという習近平からのメッセージが込められていると見るべきでしょう」(范教授)
日本側も関係改善を模索している。昨年7月には福田康夫元首相が北京を訪問。今年5月には二階俊博自民党総務会長が3千人同行で足を運ぶとも報じられているほか、高村正彦副総裁が日中友好議連会長を務めるなど、水面下での動きは続いているようだ。
「私が見る限り、中国側のボールを安倍首相は見送っている。中国側が注目しているのは戦後70年談話です。談話の内容によって日中関係が進展するか、依然として『政冷』が続くのかが決まるはず」(范教授)
※週刊朝日 2015年4月3日号より抜粋