亜州大学の朴盛彬(パクソンビン)教授は、この「雇用なき成長」が体感景気の悪さにつながっていると指摘する。
「成長はしているけれども雇用が伴わない。特に20代30代の雇用が落ち込んでいる。雇用の不安定は不安を生み、過度な競争を呼び、若者たちはスペック(資格)積みに余念がない。就職できた勝ち組は潤うが、現実はそうなれない人がほとんどだ。住宅などのさまざまな不安要素と相まって、消費が戻ってこない」
韓国では、青年の苦悩を表す造語が次々と生まれていて、「三放世代」もそのひとつだ。これは、不安定な暮らしを強いられるため、恋愛、結婚、出産の三つを放棄=あきらめなければいけない境遇を嘆いたもの。ある大手企業で働く30代後半のゴールドミス(資金に余裕がある独身女性)が言う。
「いつ業績が悪くなるか、クビを切られるかと思って気が気でない。結婚したくても、いいと思う相手が非正規社員だと、なかなか結婚に踏み切れない。結婚できないなら、老後のことも考えて貯蓄もしないといけないし……」
離れていく民心に苦しい経済、分裂する社会とさまざまな内憂を抱える朴槿恵(パククネ)大統領だが、外に目を向けても「外患」が広がる。
日本とは就任後一度も首脳会談が開かれていないという異例の事態が続いているし、米国には先の駐韓大使襲撃事件で“借り”を作った格好となった。すでに、米国のミサイル「THAAD」の韓国内配備を巡り、中国からは反対を表明されるなど米中の狭間で苦しい立場に立たされている。
就任3年目は大統領にとって目に見える功績をあげなければならない「勝負の年」といわれる。最近では、内外の膠着した事態を突破するためには「南北会談を行うしかないのではないか」という予想まで飛び出した。
戦後70年、日韓国交正常化50周年の今年、朴大統領は側近に元駐日大使の李丙ギ(イビョンギ)氏を抜擢した。これは日韓関係改善へのシグナルともいわれるが、慰安婦問題などをどう解決していくのか、いずれにしても、難しい舵取りは続く。
※週刊朝日 2015年4月3日号より抜粋