自分の作る音楽を、誰に聴いてもらいたいのか。アルバムを作りながら、そのことに頭を悩ませていた時期がある。1986年のデビュー以来、ブラックミュージックというジャンルは一貫していても、作り手としては、常に新しい音楽の影響は、どうしても受けてしまう。一方で、長く自分の音楽を応援してくれている人の気持ちにも応えたかった。

「でももう、それについては考えるのをやめました(笑)。コンサートを思い出しても、お客さんって、デビューからずっと足を運んでくださっている人もいれば、19年前、『LA・LA・LA LOVE SONG』をきっかけに好きになってくれた人、ヒップホッパーとコラボレーションしたことで、興味を持ってくれた若い人と、見事にバラバラだしね。そもそも、僕は八百屋の倅なので、大根も缶詰も両方売れるようにしたい。そういう性分なんです(笑)」

 こと“自分の音で楽しませる”という視点において、彼の聴き手に対する目線は、あくまでも優しい。たとえばライヴは、いつでも、「一見さん」を意識してやっているところがあるのだそうだ。

「僕は自分のライヴでは、自由に歌って、演奏者も自由にさせて、何が起こってもいいような幅を持たせているんです。会場の雰囲気次第で、どうにでもなるように。ここはきっと長めに聴きたいだろうなってときは、1番と2番の間をリズムだけにして、しゃべりを挟んだり。ワンワードで演奏が止められたり、サビを繰り返したりできるようにしておく。

『ここでコールしたら、ここでアンサー』みたいなルールが決まってるライヴに、一見さんが行ったら孤独じゃないですか。僕のライヴでは、誰もが、『ああ、自由なんだな』って気持ちになってもらいたいので」

 とはいえ、何回も足を運んでいる人のことは軽くいじったり。アルバム以外でも、「大根と缶詰を両方売る」精神は忘れない。

「それは、生楽器しかない時代からやっている強みでもありますね。コンピューターの打ち込みの音がベースだと、ライヴではどうしてもそこに合わせることになっちゃうから」

 来年でデビュー30周年だが、こんなに少年の心を持ち続けている久保田さんでも、自分を“オジサンだな”と思うときはあるという。

「僕、かなり頑固者なので、好きなものがどうにも変えられない。“ブレない”と言うとカッコ良すぎるけど、新しい音楽に影響を受けながらも、ひとつのことをやり続けている。だからこそ見えてくるものがあって、それが自信につながったりもするし。オジサンは頑固であっていいと僕は思うんですけどね(笑)」

 アルバムタイトルの「L.O.K」は、Lots Of Kissesの略。あらためて、人生がもたらす悲喜こもごもに感謝する──。そんな思いが込められている。

週刊朝日 2015年3月27日号

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