運動器に起こる神経障害性の痛みの治療には、薬物治療のほかに運動療法、神経ブロック、手術などがある。効果的な治療法とそのゴールについて、札幌医科大学病院整形外科教授の山下敏彦医師に話を聞いた。
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運動器の痛みには非ステロイド性消炎鎮痛薬であるNSAIDs(エヌセイズ)が広く使われますが、神経障害性疼痛(しんけいしょうがいせいとうつう)への効果は低いと考えられます。現在、最も多く処方しているのがプレガバリンです。しびれ感にも効果があり、患者さんには大きな福音となりました。問題は副作用です。ふらつきやめまいなどが比較的高頻度で表れ、むくんだり、体重が増加したりすることもあります。
2013年に神経障害性疼痛での保険診療が認められたプレガバリンで効果がなかった場合の薬物治療として、日本ペインクリニック学会では抗うつ薬や抗不整脈薬などの一部も候補に挙げています。それでも効かなかったときにはオピオイドです。麻薬系なので鎮痛効果は強いものの、便秘、吐き気などの副作用や中毒、乱用にも注意が必要です。
薬物治療以外では、神経の近くに局所麻酔薬を注射し、痛みの伝導を遮断する神経ブロックという方法があります。椎間板ヘルニアに伴う坐骨神経痛には、椎間板切除術などの手術が有効なケースがありますが、外科的手段は効果がないか、逆に痛みを増幅させてしまうリスクもあるので、実施には慎重を要します。
おすすめしたいのは運動療法です。痛みのせいで活動性が低下したままだと、全身の機能が衰えてしまう「廃用性障害」を起こす場合があります。安静にするよりもむしろすすんで動き、筋力や関節の働きを維持することが重要です。運動は、脳内オピオイドという鎮痛物質を放出させることもわかっています。
治りにくい痛みには、心理・社会的な要因が絡んでいるケースが少なくありません。整形外科以外にも、ペインクリニックやリハビリテーション科、精神神経科などの複数の診療科や、理学療法士、ケースワーカーなどが参加した多方面からの「集学的治療」がカギを握ります。
神経障害性疼痛など慢性痛の治療では、痛みを消そうとすればするほど、心理的要因が強まったりします。日常生活に支障のない程度にまで減らすことが治療のゴールだと考えてください。痛みとうまく付き合うことが大事なのです。
※週刊朝日 2015年2月27日号