
ドイツ生まれで、国籍はオーストリアのピアニスト、エルンスト・ザイラーさん。同じくピアニストで、日本人の妻、和子さんとともに京都から約1時間、山陰線の胡麻(ごま)駅にほど近いに山ふところに住んでいる。夫婦デュオとして世界各地を回り、活躍しているが、なぜ、こんな山里に住んでいるのだろうか?
妻「自然は音楽家にとって生きる基本として、かけがえのない大切なものだと、彼は言うんです」
夫「ベートーベンだって、田園生活の中で音楽を作ったでしょ。都会のコンクリートの中だけでいいものが生まれるわけはないです」
妻「それに、何台ものピアノが置ける家となると限られますものね」
夫「うちには8台のピアノがあります。京都市内の家に3台は置けますが、コンサート用の2台、練習用の3台を置くには街中では無理です」
妻「同じ家に住むデュオでも、練習は一人ひとり別にします。いつも一緒にいると思われますが、そんなことはないんですよ。彼は長いこと京都や東京の大学で教えていましたから、家を空けることも多かったのです。けんかはしたくないし、しないですね。こうあるべきだとお互いに主張することはありますけれど、協調して二人で作っていかないと音楽になりませんから」
夫「ソリストとしていくら素晴らしくても、デュオは相手とのタイミングをみることも大切です。協力が欠かせません。けんかはできません」
妻「私たちは性格もまったく違うんですね。私は先を見ずに瞬間瞬間の判断で、ただマイナスになってはいけないと思って進んでいく感覚人間なんですが、彼は先を見通して、よく考えて自分の音楽を作り上げていく人なんです」
夫「彼女は天才です。楽譜を一瞬にして音にします。私は天才じゃない。楽譜を見てもすぐには音楽にはならないのです。時間がかかります」
妻「彼は努力家で真面目なんです。私は根が怠け者なのか、早く楽をしたい。だから集中するだけなんです(笑)」
(聞き手・由井りょう子)
※週刊朝日 2015年1月23日号より抜粋