今年夏、本誌に獄中から断続的に大量の手紙やノートが届いた。大阪府警の「スパイ」とされる拳銃のスペシャリストA被告が獄中から本誌に送ってきたものだ。その中には今年2月、大阪府警の目の前で白昼堂々、A被告も参加した拳銃の売買が行われた様子が克明に記されていた。A被告の記述をもとに当日の様子を再現しよう。
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2月23日午後2時半ごろ。大阪市の繁華街のど真ん中にある高級ホテルのロビーに、2人連れの中年男性が入ってきた。一人は作業着の上下姿。首からタオルを巻き、キャリーバッグを転がしている。もう一人は黒いジャケットに青いジーンズ姿。一見すると作業員風だが、実はこの2人、拳銃の売り主の代理人である。
2人はロビーで待っていたA被告と接触して言葉を交わすと、作業着の男とA被告が2人で連れだって、男子トイレに入った。
しばらくして、作業着の男が一人でトイレから出てくる。それから30分ほど間を置いてようやくロビーに姿を見せたA被告は、先ほどは持っていなかった重たそうな黒いリュックサックを手にしていた。キャリーバッグの中に入っていたリュックサックを、トイレの中で受け渡したのだ。リュックサックの中身は、拳銃6丁と100発以上の銃弾だった。
このやり取りを、じっとロビーで監視していた男がいる。格闘家のようながっしりした体格のこの男は、A被告の情報で現場に駆け付けていた大阪府警捜査4課のB刑事だ。
大捕物が始まるかに思われたが、B刑事はなぜか、動こうとしない。男たちはロビーでカネの受け渡しを行うと、悠々とホテルを後にした。
「S」であるA被告から情報提供されていたにもかかわらず、B刑事が摘発に動かなかったことで、拳銃の売買が成立してしまったのである。A被告の手紙やノートには、この前後の経緯も詳細に記されていた。