夫の言動に不満を抱かない妻などいないだろう。ただ、その言動の原因が先天的な脳の病気にあるとしたら──。ここ数年で知られるようになった「大人の発達障害」。「知的障害や言語障害を伴わない自閉症」と定義されるアスペルガー症候群を代表とする自閉症スペクトラム障害(ASD)などがその一例だ。そんな夫と暮らす妻たちが抱える状況や心身の不調を指す「カサンドラ症候群」という言葉がインターネット上などを中心に広まっている。
 
 こうした状況のなか、同じ悩みを抱える、ASDの人のパートナーである妻たちが支え合う「自助グループ」も生まれつつある。東京都多摩市を中心に活動する「ハーンの妻達」は、代表のSORAさん(53)自身、ASDの夫(58)がいる。11年前、ASDの長男と同じ医療機関で診断された。

 夫はお金の管理ができず、自分の会社を二つ倒産させ、SORAさんが働いて家計を支えた。女性問題を起こしたことも。

「夫に悪気はなく、反省もしない。苦労の連続でたくましくならざるを得ず、女性としての幸せと自信を失っていきました」

 ASDへの認知や理解が進むのはいいが、周りから「障害者の夫に理解がない妻」と見られるのではないかと、誰にも打ち明けられない。そんな孤立感がパートナーを苦しめ、心身をむしばんでいく。

「同じ立場の人たちが集まって、自分だけじゃないと知り、気持ちを切り替えられる居場所があれば」と13年に自助グループを立ち上げ、参加者は現在までにのべ200人を超えた。悩みを打ち明け相談する情報交換会のほか、心身の不調を未然に防ぎ、妻が自分の力で回復する方法を考える体験型のワークショップがメーンだ。「夫婦関係を立て直したい」「つらいけれど何とかしたい」という妻たちが多く集う。

 
「ASDはわかりにくい障害。夫が自覚をしないまま、対応の仕方がわからない妻が全部を背負うには限界がある。夫婦が向き合って解決に向かうために、第三者の介入が必要だと思う」(SORAさん)

 専門外来を持つ昭和大学附属烏山病院(東京都世田谷区)の加藤進昌病院長も言う。

「ASDは先天的な障害で治ることはない。だが障害を本人が受け入れ、基本的な会話のルールや家族や社会との適切な向き合い方を学習、体験すれば、コミュニケーションが円滑になる可能性はある」

 昭和大学附属烏山病院では診療の場に家族を同席させ、対処策を助言することも。またASDの診断を受けた人対象の「発達障害専門プログラム」を実施している。1年かけてコミュニケーションを学んだり自己理解を深めたりし、生活や仕事をしやすくするのが目的。だが、同院のように大人のASDを対象とした医療施設や支援体制はまだ数少ない。

 発達障害の夫(52)との波乱の家庭生活を赤裸々につづり、シリーズ累計10万部を突破したコミックエッセー『旦那(アキラ)さんはアスペルガー』の作者・野波ツナさんが訴える。

「ASDへの理解が広まってほしいと願うと同時に、家族も何らかの困りごとを抱えている状況にも目を向けてほしい」

週刊朝日  2014年8月29日号より抜粋