『週刊朝日』の長友佐波子編集長が企業で輝く女性役員にインタビューする「フロントランナー女子会」。今回はDeNA創業者で昨春から取締役として現場復帰した南場智子氏です。
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長友:eコマース(=電子商取引)って、ネットショッピングですよね。すでに定着してますが、まだ拡大できるんですか?
南場:昨日も見たけど、まだかさばるトイレットペーパーを持って歩いてる人がいるんですよ。ネットスーパーを利用する人も増えているとはいえ、eコマース化率ってこれから10倍、20倍になっていくと思う。
長友:今はお米とか水とか重いものをネットで買う人が多いけど、今後はちょっとした日用品も気軽にネットで買う時代がくる?
南場:まだまだ変わると思いますね。利便性isマネーは間違いなく加速するし、私たちは感動を与えるほど便利なサービスを提供しないといけない。注文のしやすさとか、届けるまでの速さとか、もっと利便性は追求できると思っているので、実験的な取り組みも含めて、果敢に攻めるつもりです。
長友:DeNAという社名は、eコマースの新しい遺伝子を世の中に広めていくDNAでありたいという思いでつけたとご著書にありました。さらに進化した流通革命を起こすと?
南場:そうですね。私たちのオリジン(原点)はeコマースだし、流通革命への思いは依然として強くあるので、まだまだ諦めずに引っ張っていきたいですね。
長友:そういえば南場さん、小学校でプログラミング教育をするんですか?
南場:そう、10月から佐賀県武雄市立山内西小学校の1年生を対象に、月8回。プログラミングといっても、タブレットを使った視覚的な操作で、楽しみながらゲームやアプリを開発する概念を習得する感じです。私はプログラミング教育が、今の日本が抱える問題の特効薬になると思っていて。
長友:文系の人間からすると、プログラミングって、ついていけなそう……。
南場:小学校のときから教えると論理的な思考力や発想力がすごく自然に身につくんですよ。そして、プログラミングには正解がない。キャラクターを作って好きに動かしたりするんだけど、何が楽しいか正解は一つじゃないでしょ? 日本の教育システムは間違わない達人を量産することに特化してきた。それがいろんな問題の根になっていると思うんです。うちは新卒が3万人受けに来て高学歴の人も多いけど、間違わない回答をしようとする子がほとんど。おもしろい人材を見つけるのは難しいです。
長友:プログラミングでそういう人材が育つんですか。
南場:まずは、ITを用いるとこんなことが可能になると発想できるレベルになること。これはすごく大事。かつて日本の競争力の源泉だったものづくりにしても、IT的な発想が交わらないと世界で戦えませんから。オールドエコノミーが苦戦しているのもその辺ですよね。オープンソースコミュニティーで交流を始める子も増えると思うんです。
長友:オープンソースコミュニティーって何ですか?
南場:例えば私が、こんなゲームを作りたいとネット上で旗を揚げる。プロジェクトリーダーとしてルールを決めて、プログラミングしたものをネット上に置くと、いろんな国の人がワーッと参加して手弁当でその続きを手伝ってくれるんです。今は高校生ぐらいからやってるんだけど、もっと若年化するかもしれない。そのプロジェクトで出資金を集めて起業する人も増えているし、それができるような人なら、どんな企業でも欲しいですよね。そうなったら東大だ、開成だって関係ない。そういう人材の育成も狙いの一つなんです。ただ、難点は20年かかりますってこと(笑)。
長友:せっかく育った才能が外資系にとられちゃう可能性もありません?
南場:いいんです。世界で通用しない日本人が日本を救うことなんてできない。最終的には日本にとって有益になるはずだから。
長友:じゃあ、このプログラミング教育も御社の柱になるわけですか。
南場:そこまで見通せていないので、最初に柱として言いませんでしたが(笑)、将来的にはそうしたいので模索している途中ですね。
※週刊朝日 2014年8月15日号より抜粋