
食品や日用品なども、大幅な値上げが繰り返されている。民間調査会社の帝国データバンクは、今年の食品値上げ調査で「価格を変えずに内容量を減らす『実質値上げ』のケースが増えている」と指摘する。主要食品メーカー195社は今年累計で1万2054品目を値上げするという。このうち4月1日までの累計が1万品目を超えるとも。
民間調査会社の東京商工リサーチは主要食品メーカー121社のうち64社が今年の価格改定(値上げ)を公表し、1万36品目に及ぶという。値上げ率5%以上、10%未満が全体の52.4%を占める。
食品の値上げには、原材料費や加工費、輸送費などの上昇が背景にある。食品のような消費者に近い商品は価格転嫁がまだ不十分で、今年も値上げが続くと民間調査会社はみている。
この10年に、どれくらい物価が上昇したのか。消費者物価指数は2012年の94.5が22年に102.3と、8.3%の上昇。今年の上昇率が1.7%を超えると、累積10%に達する。足元の物価は、東京都区部の1月中旬速報値で前年同月比4.4%の上昇となっている。
累積10%の物価上昇率の意味は、日々の買い物が苦しくなるだけでない。年金生活者は物価上昇率ほど年金が増えず、預金の価値は1割も目減りしている。かつて、標準世帯が老後に必要な預金額は2千万円という国の試算があったが、インフレによる預金の目減りで必要額はさらに増える。
「政府債務の1200兆円が家計でインフレ調整されている」と指摘するのは熊野英生・第一生命経済研究所首席エコノミスト。政府などの債務はインフレ分だけ目減りする一方で、老後資金を蓄えるシニア層など金融資産を持つ人は資産価値の目減りに見舞われる。
さらに、「超低金利は罪深い」と熊野さんはいう。年金改革が始まった04年ごろ、誰も「こんなに低金利が続くと思っていなかったのではないか」と指摘する。総務省の家計調査報告で、世帯主60代の2人以上世帯の貯蓄額は2537万円、同70歳以上で2318万円。熊野さんはいまの普通預金金利が0.001%と指摘し、「41年前の預金金利2.8%なら、年金にプラスして利子収入で暮らしていけた」と話す。預金金利が2、3%もあれば、シニア層は年間数十万円の利子所得を得られる。