2003年、アメリカのイラク侵攻を支持し、イラクのサマワに自衛隊派遣した日本。10年たった今、その総括を日本はしなければならないとジャーナリストの田原総一朗はいう。
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アルカイダから派生したといわれるスンニ派テロ組織「ISIS(イラク・シリア・イスラム国)」が、イラク北部の主要部を掌握し、首都バグダッドに迫っているという。事実上、イラクは内戦状態と言える。
「ニューズウィーク」誌で、政治コラムニストのレイハン・サラムは、「アメリカが03年にイラクに侵攻したのは大きな間違いだった。そして11年に米軍がイラクから撤退したこともまた、大きな間違いだった」と厳しく指摘している。
イラクに侵攻したときの大統領はブッシュ、撤退したときはオバマ大統領だが、両者ともに大きな間違いを犯したというのである。
確かにブッシュ大統領のイラク侵攻は、フセイン大統領がアルカイダと深くかかわりがあり、しかも大量破壊兵器を隠し持っているというのが理由だったが、その事実はなく、いわばイラクを制圧するための言いがかりだった。要するにアメリカの言うことを聞く「親米政権」をつくりたかったのだ。フセインをつぶせば、イラクは「親米政権」で収まると、簡単に考えていた。歴史が200年しかないアメリカ人には、千年以上のイスラムの宗派の深いもつれ、対立など理解できず、また理解しようともしなかったのであろう。
私は、イラク戦争の3カ月前にバグダッドに行った。平和で穏やかな都市だった。目的はフセイン大統領インタビューだったが、バグダッドに着くと、イラク側のコーディネーターに、「田原一行の動きは、CIAがすべてキャッチしていて、フセイン大統領に会った瞬間に爆撃する。フセイン大統領には会わせられない。そのかわり、ラマダン副大統領とアジズ副首相に会わせる」と言われ、やむなく2人に会った。
ラマダン副大統領が言った言葉が、強く記憶に残っている。
レイハン・サラムによれば、先代のブッシュ大統領の補佐官だったスコウクロフトが「フセイン政権は打倒できるが、政権打倒後、大規模かつ長期間にわたる軍事占領が必要だ」と指摘していたようだ。
イラクはシーア派が多数でスンニ派が少数派である。ところがフセイン大統領はあえて少数派のスンニ派による多数派のシーア派の支配という形を取り、独裁ではあるがイラクを安定させた。それに対してアメリカは、シーア派のマリキ首相に当然のようにシーア派政権をつくらせて、それでイラクが安定すると考えて撤退したのであった。
それにしても、アメリカではブッシュ、オバマ両大統領ともに厳しく批判され、混乱しながらも、アメリカが犯した深い誤りを総括しようとしている。それに対して日本の小泉純一郎首相は、当時、アメリカのイラク侵攻をはっきり支持し、自衛隊をイラクのサマワに派遣したはずである。ところが、そのことを総括するなどという気持ちはまったくなく、イラク戦争にかかわったことさえ、半ば忘れてしまっている。
同じ自民党である安倍晋三政権は、またアメリカの方針にただ従うだけにならぬよう、当時をしっかり総括すべきである。
※週刊朝日 2014年7月4日号