池袋駅西口から豊島区長崎にかけてが、かつて「池袋モンパルナス」と呼ばれていたのをご存じだろうか? 大正後期から終戦まで、この地域には画家や作家などが多く住んでいた。長谷川利行、寺田政明、吉井忠、長沢節……そうそうたる面々が集う活気あふれる様を、パリの芸術の街モンパルナスになぞらえたのは詩人の小熊秀雄だ。
そんな芸術家たちの最後の一人が、このアトリエの主、西田宏道(ひろじ)だ。西田は93歳で没する2012年まで、70年以上もここに一人で暮らしていた。作品をあえて売ることをせず、生涯無名で好きな絵を描き続けていたという。
築78年のアトリエは、簡素な平屋の洋風一戸建て。ミシミシと音を立てる床、使い込んだ画材が、孤高の画家の息づかいを生々しく伝える。
60軒ほどあった周辺のアトリエが次々と壊されるなか、西田は現状のまま建物を残すことにこだわっていた。池袋モンパルナスを象徴するアトリエ村を、こよなく愛していたからだ。
※週刊朝日 2014年6月13日号