本誌が先週(5月2日号)、掲載した千葉県がんセンターの医療事故と不正請求を暴いたスクープは、国会にまで波及した。1月25日の衆院厚生労働委員会で、田村憲久厚生労働相が、「調査の結果、不正請求ということになれば、厳正な対処をしていかなければならない」と言及。さらに3人目の被害者も明らかになった。

本誌は同センターで2012年9月と13年1月に起こった2件の死亡事故の全貌を、入手した「院内医療事故調査委員会報告書」に基づいて報じた。患者2人は腹腔(ふくくう)鏡下手術後に亡くなった。執刀したのは、消化器外科のエースであるA医師。さらに調査すると、保険外の腹腔鏡下手術だったにもかかわらず、保険診療が適用される別の手術として保険請求されていた事実が判明した。安全性が確立されていない手術をする場合は、院内の倫理審査を通さなければならないが、その手順も踏んでいなかった。

同センターを管理運営する千葉県病院局は本誌の発売日にあわせるように4月22日、緊急会見を開いた。そして、その場で本誌の再三の取材に対し、同センターが頑なに口をつぐんでいた新事実を公表した。

それは3人目の死者の存在だった。

実はA医師は14年2月にも80歳の男性に、腹腔鏡下手術を実施。14日後に死亡させていた。この事実をつかんでいた本誌は、A医師を4月14日に直撃した際、3人目の被害者の存在を追及した。だが、A医師は「幸いにもそういうことは起きていません」と、最後までシラを切り通したのだ。

さらに同センターに対しても3人目の被害者についての質問状を送っていた。だが、同センターは「事実関係を確認中」という回答をファクスで寄こしただけで、詳細について一切、答えようとしなかった。

ところが、千葉県は一転し、本誌の発売日にぶつけるように3人目の被害者の存在の公表に踏み切った。記者会見で3例目の男性に関する質問が集中すると、県病院局の幹部の歯切れは次第に悪くなった。

男性の病名はおろか、術後の経過や死因についても、「個人情報なので、お答えできない」と情報開示を拒否。会見場に集まった30人以上の記者たちの口調は厳しさを増すばかりで、そんな中、こんな笑えないやりとりもあった。

記者「1例目と2例目の病名を膵臓がんと公表しているのは、患者から許可を得ているからですか」
病院局幹部「膵臓がんということではなくて、この手術をしたということでご説明しています」
記者「いやいや、資料に膵臓がんとちゃんと書いてありますけど」
病院局幹部「……あ、載ってる」

新聞記者がこの日に記者会見を開いたことについて問い質すと、同幹部は「3例目の報告が来たのが3月の下旬で、結果的にこの時期になった」と、本誌発売日と関連がないことを強調した。

だが、その言葉を信じた記者は一人もいないだろう。会見した病院局幹部の手元には、ご丁寧にも蛍光ペンで線引きされた本誌記事のコピーが置かれていた。

結局、記者からの厳しい要求に折れ、22日の夜に3例目の詳細が公表された。

そこからわかったことは、この3人目の死亡事例でも、不正請求の疑いがあるということだ。病名は胆管がんで、A医師が実際に行った手術は保険外の「腹腔鏡下胆管切除胆管空腸吻合(ふんごう)術」だった。

ところが、保険が適用される「腹腔鏡下胆のう摘出術」として、またも保険請求されていたのである。

先の2件で事故調査委員会から保険の請求方法について、問題だと指摘されていたにもかかわらず、A医師と同センターは懲りずに同じことを繰り返していたことになる。

(本誌・西岡千史)

週刊朝日  2014年5月9・16日号より抜粋