「とってもかわいい。わたしの孫になったみたい。自分でも買いたいぐらい」

「パロ」を抱きながら、80代の女性Aさんは和やかな表情を浮かべた。

 横浜市の特別養護老人ホーム「芙蓉苑」では、12体のコミュニケーションロボット「パロ」(体長57センチ、重量2.7キロ)を使っている。2012年7月に神奈川県から「介護ロボット普及推進センター」の指定を受け、ロボットを導入した。

 一見するとパロは単なるアザラシのぬいぐるみだが、実は中に最先端技術が組み込まれている。パロをさすったり、パロに話しかけたりすると、まるで生きたペットのような反応が返ってくる。全身にセンサーが搭載されているからだ。

 ギネス世界記録には、「世界一セラピー効果のあるロボット」として登録されている。

 芙蓉苑にパロが導入されてから1年半。入居者の評判は上々だという。施設長の小林央さんが言う。

「施設には夕方になると『家に帰りたい』と訴えたり、塞ぎ込んでしまう方が少なくありません。精神的な不安に苛(さいな)まれ、5分おきにスタッフを呼ぼうとする入居者の方もいらっしゃいます。そのような方にパロを抱っこしていただくと、気持ちが落ち着いて、穏やかさを取り戻してくれます。中にはパロを抱っこして、安心されてそのままうたた寝を始める方もいらっしゃいます」

 パロ導入の成果は、入居者の不安感の解消だけではない。入居者と、施設を訪れる家族とのコミュニケーションが円滑になったのだという。

「以前より少なくはなりましたけど、介護施設に閉鎖的なイメージをお持ちの方もいらっしゃいます。そのような方にも、施設の入り口にパロが置いてあると、親しみを持っていただくきっかけとなる。遊びに来る子どもたちの表情も明るくなり、結果的にご入居者との会話も増えていくように感じます」(小林さん)

 芙蓉苑ではパロのほかにも、2足歩行型のコミュニケーションロボット「パルロ」(体長40センチ、重量1.6キロ)を導入している。

 パロがセラピーの役目を担っているのに対し、パルロの主な役割はレクリエーションの進行だ。

 パルロには人工知能が搭載されており、人間と会話することができる。ゲームや体操、ダンス、クイズの時間になると、その場を仕切って盛り上げる。

「元気に踊りたい気分なので、『炭坑節』はいかがですか。せ〜の……」

 こんな具合にパルロがしゃべって、音楽を流し、踊れば、周囲はドッと明るい笑い声に包まれる。

 ハードディスクには、1年365日をカバーする多種多様なレクリエーションがプログラミングされている。インターネットに接続すれば、ニュースを読み上げさせることもできる。

「遊んでくれるから、面白い。いろんなことを知っていて、私よりもよっぽど頭がいいですよ」

 パルロの司会で手旗ゲームが終わった後、80代の女性Bさんは笑って言った。

週刊朝日  2014年3月7日号