福島第一原発からおよそ15キロ北西に離れた浪江町にある山村。牧草地に囲まれた集会所の庭には、通称モニタリングポストと呼ばれる空間放射線量測定器が置かれている。しかし、この装置は実際の放射線量よりも低い数字が出るという。ジャーナリストの桐島瞬氏がその国のデタラメぶりを取材した。
* * *
この場所は放射線量が高いといわれる区域で、赤く表示されていた数字は毎時18マイクロシーベルト。
だが、持参した線量計を検出器のセンサー付近(地上高1メートル)に近づけると、けたたましく警報音を鳴らしながら数字はグングン上昇し、毎時27マイクロシーベルトを記録したのである。
周辺の測定も行うと、なおも数字は上昇した。1メートル離れただけで毎時30マイクロシーベルトを超え、地表の放射線量は毎時41マイクロシーベルトまで跳ね上がった。しばらく歩き回ったが、どこにも国の測定器が示すような低い放射線量の場所はない。
ちなみに、除染の目安となる基準値は毎時0.23マイクロシーベルトだ。
毎時41マイクロシーベルトは実にこの178倍に相当し、いかに深刻な放射能汚染に見舞われているかがわかる。帰還困難区域であるこの場所には、一時帰宅以外の住民はいない。もしここに住んでいたら、年間300ミリシーベルト以上も被曝してしまうのである。
同じように低い数値を表示する状況は、実は人が住んでいるところでもなんら変わらない。
そのため、福島には国の測定器が示す放射線量を信用しなくなってしまった人がたくさんいる。三春町に住む橋本加代子さん(51)もその一人。原発事故後、子どもが身につけている積算線量計(ガラスバッジ)の被曝量が、モニタリングポストの示す値よりも高かったのがきっかけだった。
「初めは、通学の途中にどこか放射線量の高い場所で道草を食っているのかと思いました。それで自分で町の空間線量を測り始めたのですが、わかったことは国の発表する測定値が非常に低いことでした。モニタリングポストが示す値は低いのに、1.5メートルほど離れて測定すれば、数値は2~3倍に上がりました」(橋本さん)
※週刊朝日 2014年2月14日号