日本に欧州産の汚染食品が“ダダ漏れ”となっているのとは裏腹に、日本の輸出食品は、欧州の“鉄壁の守備”に阻まれている。

「一昨年の原発事故後、お気に入りだった日本製のお赤飯が入荷されなくなった。パリ中を探しても、手に入らないんです」

 フランス在住の70代の日本人女性は、日本からの輸入食品が減ったことに困惑しているという。汚染水問題を受け、9月6日に韓国が宮城、福島など8県の水産物を全面禁輸すると発表したのは記憶に新しい。韓国ほど極端ではないが、実は、欧州を中心とした各国も、事故直後から日本の輸出した食品に対して厳しい規制を敷いているのだ。輸出食品を扱う中堅物流業者の社員が語る。

「原発事故後、福島県産に限らず、日本の食品全体が大打撃を受けています。今ではかなり評判が持ち直してきましたが、特に、欧州で規制の対象となった商品は今でも厳しい状態が続いています」

 現在の欧州連合(EU)の規制を見ると、その徹底ぶりに驚かされる。福島県産の輸出品のすべてが放射性物質の検査対象なのに加え、東北地方の太平洋側から東京都を含む関東全域、甲信越地方にまたがる広範囲で、品目を指定して検査を義務付けているのだ。しかも、日本でも規制対象となっているきのこやブルーベリーだけでなく、米や牛肉、魚類までマークされている。

 一見、厳しすぎる規制のようだが、日本からのすべての生鮮食品を輸入停止にしていたアラブ首長国連邦のような例もある。放射能汚染への厳しい視線こそが“世界標準”なのだ。日本在住の20代のイタリア人女性がこう語る。

「欧州はチェルノブイリの原発事故を経験したことで、食品の放射能汚染に対して非常に敏感。イタリアはチェルノブイリ事故後に、国民投票で原発を停止させ、現在も再稼働させていない。ドイツも福島第一原発の事故直後、脱原発を宣言してます。日本人とは感覚が違うんです」

 たとえ検査をクリアしても、イメージダウンは避けられず、日本メーカーは苦しい戦いを強いられているという。スペインの地方都市で日本食品店を営む日本人男性はこう語る。

「日本の食品メーカーも日本を避けて、海外の製造拠点からの輸出にシフトしている。私の店で扱う日本メーカーの商品も、アメリカ製のみそや日本酒、オーストラリア製のそうめんなどが増えています」

 ところが、規制はこれだけではない。15都県以外を産地とする食品の輸出には、それを証明する「産地証明」が必要となる。これがまた、一苦労なのだという。

「産地証明書の発行は各地方の農政局で行いますが、いちいち遠くまで手続きに出向かねばならない。地域や担当者によって手続きが遅かったりするので、余計にやっかいです。コストがかかりすぎて、輸出自体をやめてしまったメーカーもあります」(貿易会社社員)

 イメージダウンに加え、安全を証明するための高コストという二重苦。日本食品の復権は、いつになるのか。農業・食品ジャーナリストの石堂徹生氏が嘆く。

「欧州では汚染水問題が連日、報道され、安倍晋三首相の『状況はコントロールできている』という発言のウソは見抜かれている。データも示さずに安全を強調する政府の姿勢が、日本食への信頼まで失わせています。せっかく世界中で日本食ブームが起きているのに、実にもったいない」

 日本にとっては、まだまだ受難の時代が続きそうだ。

週刊朝日 2013年10月25日号