チェルノブイリ事故から27年を経ても、欧州の食品汚染は終わっていなかった。輸入品のキノコ、ブルーベリーから続々と基準値を超えるセシウムが検出されたのだ。放射能汚染されたものが検疫をくぐり抜けて食卓に届いてしまうのは、検査体制が脆弱なのではないか。

 輸入時に行う検査は、輸入業者が登録検査機関を通じて独自に行った検査結果を検疫所に提出する「自主検査」が中心で、国が強制力を持って実施する検査命令とモニタリング検査はほんの一部に過ぎない。

 しかも、「(放射性物質検査に限らず)輸入食品全体で1割を検査していて、後の9割はしていない」(厚労省輸入食品安全対策室)状況なのである。

 自主検査時の検体採取にしても、違反食品が検査をすり抜けやすい仕組みになっている。例えば、1ロット3万6千箱を輸入しても、そのなかの32箱だけを開け、トータル1キロの検体を測定した結果が100ベクレル以下なら検査合格となってしまう。

 さらに問題点を挙げれば、自主検査は海外でも行われている。

「現地の卸売業者が、日本で許可を受けている海外の検査機関に頼みます。食品の仕入れ価格に検査料金も含まれていて、私たち輸入業者はそれを購入するだけです。すべて任せているので、検査に関する細かいことは分かりません」(食品輸入業者)

 もし検査に不正があっても、これでは目が届きづらい。国内ですら、過去に書類改ざんの事例が起きているのだ。輸入した玉ねぎを命令検査したらカビが見つかったため、業者が以前合格した検査データに差し替えたというものだ。

 基準値超えの食品を食べさせられかねない状況を前に、どうしたらよいのだろうか。食の安全を考える会の野本健司代表は、ひとつは検疫所の監視員を増やすことだという。

「平成24年度の全国の監視員は399人。この人数で年間218万件という輸入食品全体の検疫を担当するため、全体の4%に過ぎないモニタリング検査をこなすことで今は精一杯です。しかも、放射性物質の検査はほんの一部に過ぎず、残留農薬や添加物など検疫で対処すべき項目は山ほどある。EUには日本の10倍程度の検査員がいますが、見習ったらどうでしょうか」

 加えて大切なのは、たとえ基準値以下であっても、どのくらいの放射性物質が含まれていたのか、数字を公表することだという。

 厚労省は国内食品の場合、セシウム134と137の数値を検出下限まで公表しているが、輸入食品は違反になったものしか数値を公表していない。国内食品が細かく公表しているのは「あくまでも福島原発事故の影響を受けての措置」(厚労省医薬食品局)との解釈からだ。こうした対応を野本氏は、流通ありきの基準値だと批判する。

「数値を示さなければ、その食品が99ベクレルなのか0ベクレルなのか消費者に分からず、どれだけの放射性物質を摂取しているのか不安です。公表しないのなら、基準値を2ベクレル程度まで下げないと消費者は納得しないのではないでしょうか」(野本氏)

 現に基準値超えの食品が市場に出回っていることが明らかになった以上、より厳しい監視体制が必要だ。

ジャーナリスト・桐島瞬

週刊朝日 2013年10月25日号