作家の中島らもさんが生前にこよなく愛した「せんべろ酒場」。「せんべろ」とは、メニュー単価が安くて「千円でべろべろに酔っぱらえる店」の略で、酒好きの懐には大変ありがたい。
数あるなかでも、昔ながらのコの字形カウンターがある店には特に名店が多いとされる。席に座れば、内側にいる大将や女将(おかみ)はどこか家庭的な雰囲気で、心も安らぐ。友人と2人ならいつも以上に話がはずむし、一人酒をしたい時にふらりと訪れるのもいい。ちょっとしたきっかけで常連客と会話が始まるから、寂しさを感じることもない。
東京・木場にある「河本」は、そんなコの字酒場の代表格だ。戦後の風景をそのまま残している今の店舗は1946年ごろに建てられ、店内にはクーラーもない。それでも開店時間の16時になると「どうも~」と次々に客がやってくる。女将の河本眞壽美(ますみ)さん(78)は、常連客を大切にする店の方針をこう話してくれた。
「一人で静かに飲みたい人もいるんだから、他のお客さんに迷惑かけるのはだめ。そんな人は追い出しちゃう。12歳から店を手伝ってるから、ずっと酔っ払いを怒ってきたのよ(笑)」
時代は移ろえど、いつもと変わらぬ酒場にいつもの仲間が集う。酒好きなら、そんな店を一つは持っておきたいものだ。
※週刊朝日 2013年9月20日号