俳優、演出家、脚本家として活躍する河原雅彦氏は、誕生日についてこう話す。

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 7月の7日をもって44歳になりまして。

 さすがにこの歳になりますと、誕生日やそこらで「わーい!」とはしゃぐことなど皆無なわけで、連日足を運ぶ稽古場で素敵なタレント達に可愛いロウソクが立てられたケーキを笑顔で持ってこられても、嬉しさより恥ずかしさの方が先立つわけで、ま、早い話が人知れずそっと迎えるぐらいで丁度いいのですな、40代半ばの誕生日なんて。

 でも、せっかくですから。年に一度は必ず訪れる『自分的アニバーサリー』を迎えた際にちょいと気になったことでも書いてみようかな、と。

 まずは先にも述べましたが、異様に心穏やかでした、44歳の俺。つか、無風? そりゃ個人差はあるでしょうけど、なんなんでしょうね? この淡々感。もちろん、19から20歳になった時のような、30を迎え、やがて40に到達した時のような節目では全然ないですよ。でも、あまりに年々薄れている気がするのですな、誕生日を迎える感慨が。まあ、中年を迎えた人間が手放しで喜ぶものではなくなっているのは間違いないとして、その一方で、加齢に対するプラス思考も自ずと生まれてくるというもの。

 若い頃と比べ、社会的地位も定まり、仕事に対してやり甲斐も感じ、考え方ひとつとってもずいぶん思慮深くなっており、素直に「おっさんになるのも悪くねーな」としみじみすることもしばしば。

 でも、落ち着き払ってばかりじゃ勿体ない気もします。ワクワクでもソワソワでもザワザワでもなんだっていい。少しぐらい心を動かされてもいいんじゃね? 誕生日くんに。

 では、次は何歳あたりに心が動くかと言うと、50を待たずして意外と再来年の46歳な気がする。

 ワクワクでもソワソワでもザワザワでもなく、ドーーーン!!!って感じの、これまで味わったことのない感覚と言いますか。だって、四捨五入したら完全に50歳ですから。うん、そうね。45歳だって四捨五入的にはそうっスよ?

 でもね、上手く言えないけど、実は40代って45歳で打ち止めで、46歳以降は50代という、おじさんゾーンからおじいちゃんゾーンに大突入する悲壮な心の準備を押し進める黄昏期間に感じるんだな。

 一般的に死ぬにはまだ早い。けれど、チンコの勃ちにはこれまで以上の急激な衰えを予感する。幸運なことに、ここまでハゲてはいない。けれど、これまで以上に取り返しのつかない抜け毛が進行する予感がし、徐々に存在感が増してきたお腹周りも、まるで防波堤が決壊するように一気にボヨヨーンとなってくる……。

 いわば『命の死』以前に来襲する、『男としての死』を喉元に突き付けられてるイメージなんです。超個人的に。50代の男がモテるとされる昨今の風潮も、そんなの実際は極々一部の限られた輩だけですから。

 ドーーーン!!!は必ずやってくるとして、そこで潔く諦めるのか、激しく抗うのか……。静かに44歳を迎えつつ、妙にドギマギしてきたアンビバレントな俺なのでしたん。

週刊朝日 2013年8月9日号