日仏両国の料理技術を学び、民俗学にも造詣が深い料理研究家・柳谷晃子さん。スパイスの歴史と、長所をこう語る。
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16世紀のヨーロッパでは、スペインとポルトガルが東洋進出を果たし、アフリカ回り航路が開拓されたことで、スパイスが比較的容易に手に入るようになり、食生活は楽しみながら味わうものになりました。とはいえ、胡椒やクローブ、ナツメグの産地は限定されていたため、スパイス戦争と呼ばれる激しい争奪戦が起こったこともありました。今でもヨーロッパでは、スパイスは料理だけでなく、香水や石鹸、歯磨き、虫よけと多岐にわたって利用されています。
あるインド人女性に、スパイスを勉強させてもらっていたことがあります。彼女は、毎朝家族の顔色を見て、夕食のスパイスの配合を決めるそうです。体調を整えるための生薬にスパイスを使っていることを実感しました
また彼女はカルダモンを乗り物の酔い止めとして子どもに持たせ、匂いをかぐように教えていました。なるほどと思ったのは、私の祖母も車酔いしやすかった私の姉にみかんの葉を持たせていたからです。どちらも柑橘系の香りですから、人が思いつくことは、世界のどこでもそれほど違いがないということでしょう。
日本のスパイスといえば、生姜や山椒、わさびなどと並んで、七味唐辛子があります。漢方からヒントを得て薬効のある材料をあわせて販売したのが最初で、主に風邪予防の効能をうたっていました。江戸時代に庶民に広く好まれた蕎麦に合うことで人気が高まり、次第に京都や長野に広がったと伝わっています。
胡麻好きの私流の配合は、大さじで一味唐辛子3、陳皮2弱、粉山椒1、白か黒の胡麻1、小さじで麻の実1、芥子の実1、青のり1です。調合販売している店舗なら、「酸味を立たせたいので陳皮を多めに」などと、好みの味にしてもらうことができますよ。
明治時代には、医師たちが唐辛子を胃薬として用いました。唐辛子により胃液の分泌が活発になり、胃の中が潤った状態になるからです。また、ビタミンCも多いので夏バテ予防にお勧めですが、そう多くは摂れないので、同じ唐辛子の仲間、パプリカをメニューに取り入れてみてはどうでしょう。
スパイスのいいところは、味にメリハリが付けられること。薄味でも満足でき、結果的に減塩・減脂にすることができます。
※週刊朝日 2013年7月26日号