がんとどう向き合ったか。そこに人生が集約されてくる。10月16日発売の週刊朝日ムック「がんで『困った』ときに開く本2013」(朝日新聞出版)から、著名人の生き様をお届けする。

 前宮城県知事で慶応大学教授の浅野史郎さん(64)が向き合ったがんは、統計では発症してから13カ月で半数の人が亡くなり、白血病のなかで最も手ごわいといわれる成人T細胞白血病(ATL)。ウイルスにより起こるがんだが発症するのは感染者のうち約5%。「絶対大丈夫」と楽観していた。告知されたときは大きな衝撃を受け、全身から力が抜けた。

「でも、めげていたのは1時間だけ。悩んでも、迷っても、絶望しても何も変わらない。やはり、『がんと闘うしかない』と。一緒にいた妻に、『この病気と闘うからな。絶対負けない』と宣言したら、さらに勇気がわいてきました」

 と、浅野さんは言う。一貫して前向きな姿勢でいられたのは、これまでの生き方によるところが大きい。ライフワークである障害福祉との出合いは人事異動で。それまでは未知の分野だった。宮城県知事という任務も、運命に導かれるように向こうからやってきた。

「与えられた仕事であっても雑念を持たずに必死に掘り進んでいくと、楽しくなって、乗り越えられる。さらに自分の糧になることを経験的に学んできました。がんも同じように運命だからと、それをそっくり受け止める。『治ったら、あれをやろう、これをやろう』ではなく『治す』という一点に集中することができると意外と楽。闘病自体を楽しんでやろう、という気持ちになりました」

 骨髄移植は成功し、2011年春に大学に復帰。現在、テレビ出演や講演活動を再開している。

「ATLは情報が少なく、手遅れになる患者さんが多い。そうした人たちを救うために、『ATLネット』という情報交換の場を作りました。60歳を過ぎてこうした新たな使命を得られるのは幸せなことです」

週刊朝日 2012年10月26日号