日本政府による尖閣諸島の所有権購入が中国の激しい反発を招いている。今回国へ売却した國起氏の弟で、2002年まで尖閣諸島の南・北小島を持っていた“元”所有者の栗原弘行氏(65)に反日デモ、売却について伺った。
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――中国の反日デモや、日中国交正常化40周年の式典キャンセルについて、どう感じていますか?
もうちょっと長引くと思っていたので、デモの収束は意外に思えました。国内の貧富の差による軋轢(あつれき)、政府が行ってきた反日教育などがデモの背景にある。この動きがエスカレートすると不満は直接、政府に向かいます。多民族国家ですから分裂も早い。いくら頑張っても、あと10年といったところでしょう。
――東京都との交渉から急転直下、なぜ国に売ったのか。20億5千万円という金額が決め手ですか?
それが決め手にはなりません。実は、9月6~7日に参議院で「無人国境離島の適切な管理の推進に関する法律案」が審議され、継続審議となりました。16条に「国が当該島の土地等(中略)を取得することが適正かつ合理的であると認められるときは、この法律の定めるところにより、当該土地等を収用することができる」とある。この法案が通れば、栗原家の意思に関係なく、尖閣を買い取ることができる。その際の値段はあってないようなものです。
つまり、土壇場で兄(國起氏、尖閣3島の前所有者)は国に恫喝されたんでしょう。土地収用は、栗原家にとって禁句です。私たち家族は、かつて大宮市(現さいたま市)から、自宅の立ち退きを要求されたことがある。提示された補償額があまりに低かったため父は拒否しましたが、代執行にかけられ、1961年、自宅を失いました。石原慎太郎都知事がトーンダウンしたのも、その法案のせいでしょう。尖閣が収用されたら、管轄権は沖縄県が持つことになりますから。
私はこれで前地権者ではなく元地権者になった。正直、気が楽になりました。
※週刊朝日 2012年10月12日号