西口:お客様がいるから自分が存在できるんだということがわかっていれば、自分はお客様に何ができるんだろうかと常に考えることができます。それができない駅前のたこ焼き屋がつぶれていくように、それができないマーケターばかりいる企業の業績が、よくなるはずがない。これは自分の反省を込めて言うのですが、お客様を「対象物」や「数字」として見るようになると、お客様の実情からどんどん離れていきます。僕の場合、失敗したパターンは全部そうでした。なので、「9セグマップ」は考えるためのツールとして使ってもらえればいいだけなのです。
マーケティング、つまり商売の原点は、どうしたら一人のお客様にファンになってもらえるかを考え抜くこと、それを5人、10人とどれだけやり続けていけるのかということ「だけ」だと思います。ただし、今のユーザーに「どうやったらファンになってもらえますか?」と聞いても答えはありません。認知すらしていない人に「どうやったら使ってくれますか?」と聞いても「知らんがな」で終わりです。知らない人には、「代替品として何を使っていますか?」と聞けばいいわけです。何を聞くべきか、何を考えるべきかはセグメント、つまり、相手がどんなお客様かによって変わるわけです。その整理のために「9セグマップ」はとても役立つと思います。
足立:繰り返しになりますが、各セグメントのその人に何が響くか、何が効くのかを、仮説をぶつけながら聞いていくことがマーケティングの原点なのでしょう。だからこそ、スマートニュースの新しい便益もそこからちゃんと出てきたわけですね。
西口一希(にしぐち・かずき)
大阪大学経済学部卒業後、P&Gに入社。ブランドマネージャー、マーケティングディレクターを歴任。2006年ロート製薬に入社、執行役員マーケティング本部長としてスキンケア商品の肌ラボを日本一の化粧水に育成、男性用ボディケアブランドのデ・オウを開発、発売1年で男性用全身洗浄料市場でNo.1に育成。2015年ロクシタンジャポン代表取締役。グループ過去最高利益達成に貢献し、アジア人初のグローバルエグゼクティブコミッティメンバーに選出、その後ロクシタン社外取締役戦略顧問。2017年にスマートニュースへ日本および米国のマーケティング担当執行役員として参画、企業評価金額が10億ドル(約1000億)を超える国内3社目のユニコーン企業まで急成長。2019年9月マーケティング戦略顧問に就任、Strategy Partnersの代表取締役およびM-Forceの共同創業者としてビジネスコンサルタント、投資活動に従事。
足立光(あだち・ひかる)
(株)ナイアンティック シニアディレクター プロダクトマーケティング(APAC)。P&Gジャパン(株)、シュワルツコフ ヘンケル(株)社長・会長、(株)ワールド執行役員などを経て、2015年から日本マクドナルド(株)にて上級執行役員・マーケティング本部長としてV字回復をけん引。18年9月より現職。(株)I-neの社外取締役、(株)ローランド・ベルガーやスマートニュース(株)のアドバイザーも兼任。著書に「圧倒的な成果を生み出す『劇薬』の仕事術」、「『300億円』赤字だったマックを六本木のバーの店長がV字回復させた秘密」。訳書に「P&Gウェイ」「マーケティング・ゲーム」など。オンラインサロン「無双塾」主催。