テレ東の歴史は敗北の歴史だった。1964年に東京12チャンネル(現在のテレビ東京)が「科学教育専門テレビ局」として始まった。民放の中では最も遅れたスタートだった。教育番組を流していたため、娯楽番組の多い他局に対抗できず、慢性的に赤字を垂れ流ししていた。その後、株式会社日本経済新聞社が経営に乗り出し、1981年には「株式会社テレビ東京」に変わった。
開局当初から現在まで民放の中で視聴率最下位であるのは変わらず、1980年代には「三強一弱一番街地」と言われていた。三強はフジテレビ、日本テレビ、TBS、一弱はテレビ朝日を指す。テレ東は「弱」にすら値しない「番外地」として扱われていた。
だが、近年に入り、テレ東は評価されている。ヒット番組も多いし、ネットニュースなどで世間の話題になることも多い。テレビ東京の強みは、制作費がない分だけ、純粋な企画力で勝負する番組が多いことだ。そんな企画力勝負の番組が人気を博している。
さらに、近年の躍進の鍵になったのは、一般人にスポットを当てた番組が成功していることだ。テレ東は他局に比べると、予算が少ないので視聴率が確実に取れる人気タレントをあまり積極的に起用することができない。
そこで、苦肉の策として編み出されたのが、一般人が主役の番組作りをすることだった。その大きな柱になったのが、1992年から2006年に放送されていた『TVチャンピオン』だ。さまざまなジャンルで一般人が競い合うこの番組は、根強い支持を得た。社会現象になった空前の「大食いブーム」もここから生まれた。
現在活躍するテレ東のテレビマンの多くは、この番組の出身者だという。ここで一般人が出る番組のノウハウを学び、それを生かして別の番組を作っているという例が目立つのだ。『家、ついて行ってイイですか?』『YOUは何しに日本へ?』など、一般人の日常に迫る人気番組がたくさんあるのは、テレ東がそれを強みにすることに成功したからだ。
強みを伸ばすことで独自の地位を得るというのは、ビジネスにおける弱者の戦略として有効なものだ。弱いものが強いものに勝つためには、自分たちが優位に立てる部分に戦力を集中させて一点突破するしかない。日本中が注目するゴーン氏の独占生中継を勝ち取り、「YOUは何しにレバノンへ?」を放送できたのも、そんなテレ東流「弱者の戦略」の成果なのかもしれない。(ラリー遠田)