厄介なことにこうした空気は伝染します。ピリピリした人にこちらも同じ態度で返しているとその“ピリピリ”が空間の中で拡大します。同じ空間の中に不機嫌な人がいることの影響力はそれほど大きいのです。

 人が相談を持ち掛ける場合、多くのケースは「聞いてほしい」という気持ちからです。議論したいはもちろん少ないでしょうし、ましてや説教じみたアドバイスなどは死んでも聞きたくないものでしょう。

 ピリピリの原因なんて、ほとんどが些細なことです。伝染や拡大を阻止するには、「ピリピリしないで」などと言ってしまうと逆効果です。こちらがゆったり構えて、「そんなこと世界の終わりじゃないんだから」という“雰囲気で”受け止めるのがコツです。そうすると、相手から発せられる嫌な空気はそこで止まり、相手も「なんかくだらないことにとらわれていたのかも」と思い直します。

 決して「世界の終わりじゃない」と説教調で言ってはいけません。相手には相手の事情がありますし、あなた自身に非がある可能性もあります。だからこそ、あなたからその言葉が発せられると、相手に火をつけてしまう可能性があります。「世界の終わりじゃない」といったセリフは一言も言わずに、そういった佇まいでニコニコふんわりと受け止めてあげることです。

 相手がよほど間違った道を歩もうとしている場合でないのなら、相手の意見を受け入れてふんふんと聞いて、そして認めてあげるのがよいでしょう。

 こうした状態の人と接するときには、とにかく頑張らないことです。頑張れば頑張るほどお互いに擦り切れて逆効果になります。不満をぶつけられたときも、「まあそんなときもあるね、人間だから。でもそんなこと世界の終わりじゃない」と自分を一度クールダウンさせ、その雰囲気を保ちながら、受け止めてあげることです。

 こうした振る舞いを自然にできることが、相手への本当の好意が根底にあるという証拠の一つになるのかもしれません。お互いにこのような関係を築いていくことができたら、好き・嫌いを超えて居心地の良い空間を自然に持てるようになっていくのだと思います。

 ただ、そういう気持ちが自然と持てないなら、一緒にいない方がお互いのためかもしれません。あまりに不満をぶつけられることが重なり、我慢の限界が試されるようなときは、二人の関係性を見直す必要があります。

 仮にどうしても許せないことがあっても、無理に許す必要はないでしょう。許す・許さないは、時間とエネルギーを使う行為だからです。未来に明かりがみえない我慢ほど、百害あって一利なしのものはありません。

[AERA最新号はこちら]