また退職金や企業年金といった制度が社内にない会社員や、国民年金のみの加入者である自営業者は、医療や介護などの資金確保のために何らかの自助努力(資産運用)が必要となります。その場合も、金融機関の言いなりにならないのが賢明です。
「定年までに時間的な余裕がまだある人なら、税制優遇が受けられる任意加入のiDeCo(個人型確定拠出年金)を利用するのも一考でしょう。しかし、同制度は60歳までしか掛金を納付できないので、定年間近の人には不向き。定年後も働いて蓄えるのが一番でしょう」(同)
定年のない自営業者で、まだ十分な老後資金を確保していない人も、可能なかぎり働き続けるのが最善策となりそうです。
資金を蓄えていく手段としては、税制上の優遇策がある小規模企業共済が挙げられます。たとえば現在55歳なら、元本(掛金の納付総額)以上の受け取りとなるには15年を要します。したがって、最低限70歳まで働くのを前提に加入することになります。
医療や介護などのまとまった出費については備えがあり、定年後の生活費は年金だけでどうにかなるという人も、できれば万全を期す体制で老後を迎えたいものです。年金を右から左へと使い切ると、想定外の出費で計画が狂いかねません。大江さんは説きます。
「公的年金とは、貯蓄ではなくて保険という位置づけです。終身における最低限の生活保障として設計されている仕組みで、その役割はまさしく保険なのです。だから、できれば受け取りは先送りしたい」
■公的年金を使わずに、日常生活を送るには?
そう言われてみれば、保険金をアテにした生活を最初から基本とするのは奇妙な話です。しかしそうなると、公的年金を使わずにどう日常生活を送っていけばいいのかという疑問も生じます。大江さんはこう訴えます。
「まだ元気なうちは、できるだけ長く働いて、自分自身でお金を稼ぐことがベストです。そして、高齢になって働けなくなったら、年金を受け取ればいい。もはや、定年直後から完全にリタイアするのは、よほど裕福な人だけに限られているでしょう」
以上の話をまとめれば、結論は、「老後の資金確保が十分でない人はもちろん、それなりの備えがある人でさえ、定年後も働くのが今の常識」ということでしょう。隠居老人が縁側で手持ち無沙汰にお茶をすする光景は、もはや過去のものになっています。(文/大西洋平)
〇大江英樹/大手証券会社で定年まで勤務後独立。経済コラムニストとして『資産寿命』(1月発売予定)『定年前』(いずれも朝日新書)等執筆のかたわら、全国で年間130回超の講演をこなす。専門はシニア層のライフプランニング等。
※週刊朝日MOOK『定年後のお金と暮らし2020』から抜粋