そこで浅沼が提案したのが、こよなく愛する映画をモチーフにした内容。
「コンセプトは『もしあの映画監督が僕を撮ったら、どうなるか?』。4つのセクションに分かれていて、岩井俊二、ウォン・カーウァイ、クエンティン・タランティーノという各監督の世界観をそれぞれイメージした内容と、残りひとつが普段の僕というか、ナチュラルな僕とカメラマンの小林さん本来のスタイルで撮るというもの。でも、実在する監督の世界観をイメージした内容って、ともすれば他のアーティストの物まねしてくださいと言っているようなもので、アーティストである小林さんにとって大変失礼なこと。そう思ってちょっと躊躇しながら提案したんですが、思いのほかとても面白がっていただいて。この写真集のためだけに貴重なカメラを引っ張り出してくださったり、高価なレンズを用意してくださったりしたんです」
いざ撮影するときも、浅沼のリクエストはほぼ100%叶えてもらえたそうだ。
「例えば、タランティーノ監督といえば車ですよねと言ったら、貴重なビンテージカーを用意してくださったり。黒スーツで拳銃だと北野武監督の映画でもおなじみだけど、黒スーツのままダイナーでハンバーガーを食べるとタランティーノっぽい。そう話すと、実際にダイナーをロケハンしてくれたりして。くわえタバコで顔に返り血がついていて、血まみれの手を洗い流している写真なんて、普通なら声優はおろか俳優ですら写真集に載せるカットじゃない(笑)。小道具も、こういうのあったら面白くないですかと僕が言うと、すぐに取り入れてくださって。
ウォン・カーウァイ監督は、鮮やかで不思議な色彩の光が独特できれいですよねと言ったら、見たこともない照明器具がいっぱい建てられて、青やピンクや黄色が入り混じったような、複雑で美しい色が目の前で生み出されて。『これ、使いたかったんです!』って、そういうプロセスすら楽しんでくださったんです。わがままいっぱい言ってくださいといわれたことで、楽しくなって僕も甘えちゃったんで、結果、某アイドルの写真集にかかる平均予算の6倍はかかったそうです(笑)。いやあホントに売らないと、僕、一生小林さんに頭上がりません(笑)」