松本秀男(まつもとひでお)/医師。専門はスポーツ医学。1954年生まれ。東京都出身。1978年、慶応義塾大学医学部卒。2009年から2019年3月まで、慶応義塾大学スポーツ医学総合センター診療部長、教授。トップアスリートも含め多くのアスリートたちの選手生命を救ってきた。日本臨床スポーツ医学会理事長、日本スポーツ医学財団理事長
松本秀男(まつもとひでお)/医師。専門はスポーツ医学。1954年生まれ。東京都出身。1978年、慶応義塾大学医学部卒。2009年から2019年3月まで、慶応義塾大学スポーツ医学総合センター診療部長、教授。トップアスリートも含め多くのアスリートたちの選手生命を救ってきた。日本臨床スポーツ医学会理事長、日本スポーツ医学財団理事長
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※写真はイメージです(写真/Getty Images)
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 スポーツ選手がけがをしたとき、とくに気になるのは復帰がいったいいつになるか? ということでしょう。「全治●カ月」と発表されたとき、それはどのくらい確実でどこまで治ることをいうのでしょうか。そんな疑問を、日本臨床スポーツ医学会理事長・松本秀男医師に聞いてみました。あわせて、スポーツ選手を専門に診るスポーツ医と、一般の整形外科医の治療方針の違いも解説してもらいます。

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「全治●カ月」というとき、この「全治」がどこまで治ることを意味するのか、その定義が難しいと思います。まずはそこから説明しましょう。

 例えば、交通事故のけがの場合をみてみましょう。治療にあたる整形外科医は、けがの程度を判断して、最初に警察などに提出する診断書を書くことになります。医師は病名からもっとも典型的なケースを基準として、予測的に「○○骨折、全治◯カ月」などと記載するのです。この場合の「全治」とは、手術などの治療をすべて終えて「日常生活に復帰できる程度」を指しています。

 つまり、「全治」は「完治」と同じではなく、完全に元の状態に戻るということではないのです。したがって、全治した後に、痛みや運動機能低下などの後遺障害が残るのはよくあることです。

 また、回復のスピードは患者によっても異なるため、最初にいつ治るかを確実に予測することは、ほぼ無理と言っていいでしょう。そのため、「全治●カ月と言われたのに、予定通りに治らない」といった事態が少なからず起こることも事実です。それを整形外科医の手術の腕前が悪いと決めつけるのは正しくないでしょう。まったくないとは断言しませんが、多くはけがの程度、手術の合併症の発症、患者の回復力の違いなど、さまざまな要因が影響します。

 それでは、スポーツ選手のけがの場合はどうでしょうか? 有名プロスポーツ選手がけがをすると、よくマスコミが騒ぎ立て、「××選手が全治●カ月の骨折」などとニュースで発表されます。スポーツ選手のけがの場合は法的な診断書は必要ありませんが、こちらの「全治」も同様の基準で発表されるものです。

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スポーツ医ならではの治療計画のゴール