チームもファンも一刻も早い選手の復帰を待ちわびているでしょうが、「●カ月」が過ぎてすぐに選手が試合に復帰できるわけではありません。あくまでもこれは、骨折した骨がくっつくなど、けがが治って治療が終了するまでの期間です。さらにその先の競技レベルの復帰には、体力・筋力・柔軟性の回復といった乗り越えなくてはならない課題があり、通常はそれ以上の期間がかかるのです。

 けがをすれば練習ができなくなり、どんな選手も例外なく身体機能が低下してしまいます。日頃、過酷なトレーニングを積んでいるトップアスリートほど、その落ち方は激しいものです。そこで、スポーツ医は、けがをした時点で選手の筋力や心肺機能などを一通りチェックしておきます。そして、それらの機能が極力落ちないように、手術の前にも後にも、けがをした部位以外の身体トレーニングをしっかりとおこないつつ治療をしていくのです。

 じつは、ここが一般的な整形外科医とスポーツ医との違いです。すなわち、整形外科医は患者のけがを治すことをゴールとするのに対して、スポーツ医の場合はスポーツ選手の「競技への復帰」をゴールとして治療計画を立てるという点です。

 スポーツ医は初めに選手やチームと相談し、けがの状態と次に参加したい試合までの期間などを考慮しながら、いつ復帰するか目指すべき目標を決めます。そして、競技を熟知したトレーナーの指導によるトレーニングや、専門の理学療法士によるリハビリを手術の前後に取り入れ、総合的なメニューを組んで治療を進めていきます。

 それ以外に、たとえ治療にまったく問題がなくても、回復のスピードに大きく影響するのが「患者のメンタル面」です。けがをして第一線から離れた途端、選手は気持ちが落ち込みやすく、リハビリ治療に対するモチベーションを維持するのが難しいものです。そこでスポーツ医は、患者を早く回復させるためにこんな工夫をすることもあります。

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スポーツ医ならではの配慮とは