安倍首相は「自動車および同部品は単なる交渉の継続ではなく、さらなる交渉による関税撤廃を明記した」と説明するが、そんなことは協定の関係文書のどこにも書かれていない。そのため、官僚たちは“ウソ”と“隠ぺい工作”に奔走せざるをえなくなっている。
■書き換えられた外務省文書
外務省が公表した日米貿易協定の概要を説明した資料では、9月26日には<米国譲許表に「更なる交渉による関税撤廃」と明記>と安倍首相の説明に近い書き方をしていた。それが、10月18日には<米国附属書に「関税の撤廃に関して更に交渉」と明記>と変化。わずかな違いに思えるかもしれないが、関税引き下げのスケジュールを示す譲許表に「関税撤廃」と書かれていないことの意味は大きい。将来的な自動車関連の関税撤廃が約束されていないことを示すからだ。7日の衆院連合審査会で共産党の田村貴昭衆院議員からそのことを指摘されると、内閣官房の渋谷和久政策調整統括官は、ニつの文書について「時系列に伴う修正」と、改変を認めた。前出の作山教授は言う。
「関税撤廃で合意しているのなら、政府は自動車関連のどの品目で将来的な関税撤廃に合意しているかをリストにして示せばいい。しかし、本当は合意がないのでそれはできないでしょう。世界貿易機関(WTO)は自由貿易協定(FTA)について9割超の関税撤廃が必要としていて、米国の自動車関連の関税撤廃がなければそれを満たしません。日米というニつの大国が国際ルールを無視することの意味は大きい。これまで安倍首相は韓国に対して元徴用工問題で『国際的な約束を守ってほしい』と批判してきましたが、協定が発効してしまえば今後はそれも言えません。国際的な自由貿易のルールを、トランプ大統領と一緒に破壊することになるからです」
安倍政権の国際ルール違反を表に出さないようにするため、国会での説明は意図的に改変された情報ばかりになってしまった。その一つが、協定の経済効果を示した試算だ。