車内に並んだ向かい合わせテーブルの上には、すでにお弁当とお品書きが置かれており、そっとふたを開けると、沿線の特産品や郷土料理が色合い豊かに詰められていた。若狭といえば、真っ先に思い浮かべるのは若狭湾と、そこでとれる豊かな海産物。若狭地域は古来、朝廷に海産物を納めた御食国(みけつくに)として知られており、評価はお墨付き。なかでも特に名高いのは鯖料理で、若狭から京の都まで鯖を運んだ道は、「鯖街道」としてよく知られている。

 お弁当のなかでも目立ったのは「鯖」。といっても、大きな切り身がまるまる入っているというものではなく、焼鯖寿司、〆鯖寿司、さらに竜田揚げと一つひとつ調理法が異なれば、それぞれの魅力も違う。炭火でじっくりと焼いた鯖をのせた焼き鯖寿司は、中にギュッと押し込まれた脂身がうまみを醸し出し、〆鯖寿司であれば歯応えのはっきりと感じられる弾力がおいしさを引き立たせていた。

 そうこうしているうちに列車は敦賀発車後の山がちな景観を抜けて、日本海を遠くに見下ろしていた。海も魅力だが、だけどそれだけではないのが若狭の特徴の一つだ。

 続いていただいたのは、若狭牛のローストビーフ。霜降りのしく、口に入れるととろけるような甘さすら感じた。

 やがて美浜駅に到着する。地元の人たちとともに、美浜町のゆるキャラ「へしこちゃん」が「丹後くろまつ号」を歓迎し、目いっぱいに手を振ってくれた。その温かな歓迎ムードに、思わずこちらも目いっぱいに手を振り返す。

 へしこちゃんは、若狭地域の伝統料理である鯖のぬか漬け「へしこ」をモチーフにしたキャラクター。塩気が強いことから、へしこはお茶漬けの具や酒のツマミとしても人気が高いが、今回のお弁当では、薄くスライスされた大根とともにいただいた。さっぱりした大根と合わせて食べることで、噛むほどにあふれ出るへしこの濃厚なうま味が引き立たされた。

 食事に舌鼓を打っているうちに、景色は様変わりし、木々の間から三方五湖が見えてきた。日本海の荒波とは異なる、落ち着いた水面(みなも)に、心がしばしくぎ付けになる。

 続いての停車駅は、三方。ここでは10分ほどではあるが下車時間が設けられており、駅舎では地元保育所の園児たちが歓迎の歌を披露してくれた。さらには、地元高校生が考案したオリジナルクッキーが乗客全員にプレゼントされた。

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「おもてなし」は沿線の各自治体が発案