その昔、北の富士さんが俺のやっていた寿司屋に来てくれたことがあるんだ。そのとき側にいた娘が、「カッコいい!」って思わず声を上げちゃうくらい(笑)、粋なんだ。女房も、「出会った人たちのなかでは、勝新太郎さんと双璧」ってベタ惚れ。さりげないセンスや持って生まれた華やかさは、自然と醸し出されるものということが、北の富士さんに触れるとよくわかる。今77歳かな、それでもあれだけ元気だし、こっちも頑張ろうっていう気になるじゃない。俺も老けてなんかいられないよ。
思い返すと、俺が十両のときに仲間たちと雑談していたら、向こうのほうから雪駄の音を鳴らしながら、北の富士さんがやってきて、スッと目の前を通りすぎた。あの所作を目の当たりにした瞬間から、憧れの対象なのかもしれないな。
俺も泥臭いなりにプロレスを貫徹できたからか、今度は粋で横綱まで上り詰めた人に近づきたいと願っているのかもしれない。やっぱり憧れのヒーローを超えてからが、人生本当の勝負だよ。まあ、北の富士さんに比べたら、今の天龍源一郎なんてまだまだ全然カッコよくない、花火と線香みたいなものだな(笑)。
(構成/小山 暁)