親方として「横綱」を作れなかった貴乃花だが、ひとりの「女優」の誕生には大きく貢献したわけだ。

 もちろん、りえ自身、ただの「悲劇のヒロイン」で終わらないよう、真面目に努力してきた。女優としての研鑽を積むべく、野田秀樹や蜷川幸雄の舞台に出たりしたことは、天海祐希の代役を急遽務めたときなどにも活かされることになる。

 私生活ではその後、実業家とできちゃった婚。離婚してシングルマザーとなったが、森田剛と再婚した。そんな、相変わらずの劇的な展開に加え、激やせ後に起きがちな激太りをすることなく、儚げな容姿を維持していることで、いわゆるメンヘラ傾向の女性たちからの支持も高い。

 そういう意味で、彼女はやはり、時代を象徴する女優だろう。また、そうなった今も、アイドル時代の輝きを記憶し続ける人がいる。このままいけば、吉永小百合のようなポジションに到達するかもしれない有力候補のひとりである。

宝泉薫(ほうせん・かおる)/1964年生まれ。早稲田大学第一文学部除籍後、ミニコミ誌『よい子の歌謡曲』発行人を経て『週刊明星』『宝島30』『テレビブロス』などに執筆する。著書に『平成の死 追悼は生きる糧』『平成「一発屋」見聞録』『文春ムック あのアイドルがなぜヌードに』など。

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